ベールに包まれた宇宙ビジネス、夢見る起業家の勝機はどこに?:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/3 ページ)
米スペースXの「クルードラゴン」が5月31日に、民間企業としては初の有人宇宙飛行を成功させた。同社を率いるイーロンマスク氏をはじめとして、AmazonCEOのジェフ・ベゾス氏や、国内では堀江貴文氏といった著名な起業家が、宇宙を次のビジネス機会と捉えている。宇宙ビジネスのいかなる点にチャンスがあるのだろうか。
影の面積から原油貯蔵量を推定
まず、金融面における衛星データの典型的な活用事例といえば、米オービタル・インサイト社が運用する原油タンク貯蔵量の推計だろう。貯蔵タンクは、原油の酸化を防ぐために、”落し蓋”のように天井がせり下がる構造となっている。そのため、貯蔵タンク内の原油が少なくなると、タンクの淵に影が浮かび上がるのだ。衛星写真のデータをビッグデータ解析することにより、タンクの淵に浮かんだ影の面積から、原油貯蔵量の推計値をはじき出すことができる。
これにより、公的機関が原油の備蓄量を発表する数カ月前から、原油の貯蔵量を知ることができる。原油は経済活動の活発度にも左右される商品であるため、原油を取引する市場参加者はもちろん、マクロ経済分析を行う公的機関やリサーチ機関、保険会社などの活用が期待されている。
近年の衛星画像は1メートルほどの範囲まで分析可能だ。スーパーマーケットの駐車場に停車している車の数からその企業の業績を推定したり、それらのデータを集積して国家のGDP(国内総生産)。を推計したりする応用例も、一部ベンチャー企業を中心に検討されている状況だ。
人工衛星の画像から米のタンパク量を推定できる?
農業における著名な例は、青森県のブランド米「晴天の霹靂」だ。同ブランドは、衛星の地球観測データを活用することで、高品質なブランド米を一定の品質を保って出荷することを強みとする。
米は、収穫タイミングと、含有しているタンパク質の割合の低さが味を左右するといわれている。衛星データからは、このいずれも観測可能だ。収穫タイミングの遅れは、米粒の割れや食感の悪化をもたらす。稲穂の色を表す波長を衛星データから観測して、水田ごとに最適な収穫時期を分析することができるのだ。
米のタンパク質含有率も、収穫タイミング同様に稲の色から観測可能だ。稲の色が明るい緑であればタンパク質が低く、稲の色が暗い緑であればタンパク質が高いという傾向がある。タンパク質が高い場合は、肥料の量を減らすことで、柔らかくて粘りのあるおいしい米を収穫できるといわれている。
地方独立行政法人青森県産業技術センターによれば、このような努力の結果、「晴天の霹靂」は同じ地域で栽培されている他品種よりも1.5倍の高値で販売される「ブランド米」の地位を獲得することができたという。衛星による地球観測データによって、従来1日20地点とされていた稲の調査能力が、1万地点と比べ物にならない調査能力を有するに至ったことで、これを実現した。
素早く正確な衛星の地球観測データと、ビッグデータの解析という2点を活用することで、人力では実現し得ない品質の管理が可能となり、ひいては農作物のブランド化や付加価値向上のため、利用度が高まっていくだろう。
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