三ツ矢サイダー、コロナ禍の5月に「販売1割増」の背景:ロングセラーの戦略とは(4/4 ページ)
アサヒ飲料のロングセラー「三ツ矢サイダー」が好調だ。5月のブランド全体の販売数量は前年同月比12%増。その背景には、ブランド強化のための「新商品」「リニューアル」の取り組みがある。ロングセラーブランドならではの戦略とは?
コロナ禍で盛り上がる「日本の夏」写真企画
SNSなどによる発信は以前から行っているが、新型コロナによる意識や行動の変化を踏まえ、「“日本生まれ”の価値を打ち出したり、在宅勤務で飲んでもらうイエナカ消費を訴求したりするメッセージを前に出すようにしている」(水上氏)と、発信する内容にも変化が現れている。
なかでも、SNSで展開している「#守りたい夏」というユーザー参加型の企画が、コロナ禍で注目を浴びている。夏に関する写真やイラストを自由に投稿してもらい、フリー素材サイトをつくるという企画だ。5月18日に開始したところ、すでに6000件以上の画像投稿があり、関連ツイート数は2万件に上る。6月30日まで募集し、優秀賞などを選定する予定だ。
もともとはコロナとは関係なく、大雨や台風などの大きな災害が増えていることを踏まえ、「サイダーがおいしい夏を守りたい。そのために三ツ矢ブランドができることとして、環境に配慮したラベルに変更した」(宣伝部 クリエイティブグループの高橋幸亮氏)というメッセージを伝え、共感してもらうための取り組みだった。
ところが、ふたを開けてみると、今年の夏は学生のスポーツ大会や各地のお祭り、花火大会などが次々と中止に。今まで当たり前のように眺めてきた「日本の夏」の風景が失われてしまった。そういった背景と「#守りたい夏」のコンセプトが合致。今年は見られないかもしれない「美しい夏の風景」の投稿が相次いでいる。高橋氏は「この企画に関して『日本の夏っていいなぁ』『見ているだけで心が休まる』といった投稿も見られる。それぞれの思い出に刺さる企画になった」と話す。
三ツ矢ブランドが“夏”とのつながりを重視する理由は明白だ。水上氏は「三ツ矢サイダーは、7月に飲む人がすごく多い」と明かす。毎年夏には必ず飲んでほしいから、「みんなに『三ツ矢サイダーがあるよ』と、価値を思い出してもらう活動を大切にしている」。ブランドの価値とイメージを守った上で新しい提案を加えることを重視しているという。
さらに、メインユーザーである若い世代への視線も重要だ。「三ツ矢ブランドを永続的に発展させるためには、若い人に好意をもってもらう活動が必要。新商品、リニューアル、SNSなどの取り組みは、そういった方向性で全てつながっている。それが成果に現れているのでは」(水上氏)。時流や市場の変化を意識しながらも、ブランドに求められている価値を最大限発揮するための取り組みを積み重ねることが、長く発展するために欠かせない。それが成長戦略の根底にあるようだ。
関連記事
- マイナス5度の「三ツ矢サイダー」 自販機で味わう“シャリシャリ感”
アサヒ飲料は、マイナス5度に冷やした「三ツ矢サイダー」を販売する自販機の展開を開始。5月末までに、全国で約150台を設置する。 - 低迷していた「カルピス」が、右肩上がりの再成長を遂げた理由
2019年に100周年を迎える「カルピス」がいま、再び成長している。販売量は横ばいで推移していたのに、10年ほど前から右肩上がりに伸びているのだ。変わらない味のロングセラーブランドが再成長できたのはなぜだろうか。 - 大人向けの「ファンタ」が登場 濃厚グレープで30代以上に照準
コカ・コーラシステムは3月2日、フルーツ炭酸飲料「ファンタ」ブランドの新商品「ファンタ プレミアグレープ」を発売する。10代のころにファンタを飲んでいた30代以上をターゲットに、これまでとは違うニーズを取り込む。 - “透明ビール”を飲んでみた 8年越しの開発、アサヒ「クリアクラフト」
アサヒビールがテスト販売を開始した透明な発泡酒「クリアクラフト」。7月下旬から2回目のテスト販売を実施する。技術的なハードルを越え、8年越しで開発された「透明ビール」を飲んでみた。 - スカッと発散 強い刺激の炭酸水、競争激しく
炭酸水の新商品を各社が投入している。アサヒ飲料「ウィルキンソン」を筆頭に、炭酸水をそのまま飲む需要が増加。強い刺激がありながら健康的であるため、リフレッシュや爽快感といった需要を訴求し、競争が激しくなっている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.