アニメ版『ジョジョ』の総作画監督が語るアニメーター業界の「過酷な実態」:アニメ業界の「病巣」に迫る【前編】(2/2 ページ)
アニメ業界には未だに低賃金や長時間労働といった過酷な労働環境がはびこっている。『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない』などでキャラクターデザインを担当している西位輝実さんに、その実態を聞いた。
動画の荒れていないアニメを作っている会社は優良
――話を聞いていると、今のアニメスタジオは非常に厳しい状況だと感じるのですが、逆に西位さんから見て、ちゃんとしていると思う会社はありますか?
京アニ(京都アニメーション【※1】)さんはちゃんとしている、と聞きますね。
やっぱり作品を見ていると、「この会社はある程度ちゃんとしていそうだな」と、なんとなく分かりますね。動画【※2】が荒れていないというのが、私の中で基準の1つになっていて。動画が荒れていないというのはイコール、最後の工程までマネジメントできているということだと思いますから。
動画がちゃんとしているということは、新人を育成しているということなので。つまり動画がちゃんとしていれば、そこは人が育つであろう会社、社内の人材がいい感じで循環している会社だと、想像できるんです。
※1 京都アニメーション:『涼宮ハルヒの憂鬱』『けいおん!』『響け! ユーフォニアム』などで知られるアニメ制作会社。アニメの元請制作だけでなく、自社オリジナル企画にも積極的に取り組んでいる。2019年7月にはスタジオの放火事件に遭い、多数の死傷者が出るなど甚大な被害を受けた
※2 動画:アニメーションにおいて動きのキーとなる絵を「原画」と呼び、その原画と原画の間を埋める細かい動きを描いた絵を「動画」と呼ぶ。動画は新人スタッフがアニメの制作を学ぶために任されることが多いが、アニメのクオリティーを左右する重要なパートである
――動画というセクションの大切さについては、『アニメーターの仕事がわかる本』にも詳しく書かれていますよね。西位さんご自身は、動画から作画、そして作画監督というキャリアのステップアップを、順調に歩んでこられたのですか?
私の頃はまだ、そのステップがちゃんとありましたね。それが今は二原【※】からスタート、みたいになっていて、その後の工程の人たちがけっこう大変になっているというのが、Twitterを見るとよく分かります。最近はTwitterを見ると、アニメ業界の知人はみんな怒っているので、Twitterを見るのが怖くて(笑)。
※二原:アニメーションの原画のうち、アニメーターが最初に描いたものを「第一原画(一原)」と呼び、一原に対して作画監督が修正を加えて清書したものを「第二原画(二原)」と呼ぶ。以前は一原と二原の工程を1人のアニメーターが行っていたが、現在のTVアニメの制作現場では、時間の不足から別のアニメーターに分かれている。このあたりの経緯や問題点に関しては、『アニメーターの仕事がわかる本』で詳しく説明されている
――第一原画、第二原画の問題も、『アニメーターの仕事がわかる本』に出てきますね。
そうなんです。自分の描いた絵なんだけど、他人によって違う絵にされたものがオンエアで流れるっていう。本来だったら1人でやるはずの仕事がどんどんと切り刻まれちゃって、違う人の手で変わっていくので。最終的に「誰が描いたんだ、これ?」って思っちゃうような仕上がりになっちゃうのは、やっぱりツライですよね。
――最近のアニメだと、30分のエピソードに対して作画監督が10人ぐらいいたりしますよね。
しかもその場合って、30分を均等に10分割して、3分ぐらいを続けて担当しているわけじゃないんですよ。カット2を見た後にカット30を見たりして、飛び飛びになるんです。
そうするとアニメ本編を見た時に、自分の絵が出てくるのは一瞬なんですよ。それだと達成感なんて全くなくて、完成した作品を見る気も起きなくなるので。
アニメって、作っている人たちの愛でできていたはずなのに、その愛の部分から削られていくんです。その状況で「とにかく手を動かせ」といわれても、それはみんなキツイんじゃないかなと思いますよね。
――ある程度の少人数で作業できれば、もう少しモチベーションも上がるのでしょうか?
『アニメーターの仕事がわかる本』にも出てくる、『メカウデ』【※】みたいな制作スタイルでやれると、今後はいちばんいいんでしょうけど。ただアニメーターの場合は、少人数では完結しきれないんです。作画だけ5人いてもしょうがない、みたいな感じで。
立ち上げ時にアニメーターだけじゃなくて、演出できる人とか撮影できる人とかもいればいいんでしょうけど、なかなかそうはならないので。そこがいちばん難しいかなと思いますね。
※『メカウデ』:若手女性アニメーション作家 のオカモト氏が監督・原案を務めるオリジナルアニメ。クラウドファンディングによる資金調達でパイロットエピソードが完成し、2020年春現在も制作が続いている
【編集部より:明日公開の後編では引き続き西位輝実さんに、Netflixをはじめとする、近年の日本アニメに進出している海外資本のビジネスなどについて聞いています。お見逃しなく!】
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