コロナ禍は、地権者だけが得をする「不労所得スパイラル」を食い止められるか:小売・流通アナリストの視点(2/4 ページ)
コロナで大打撃を受けている小売り・飲食業各社。その副次的影響として、今後は都市圏を中心とした家賃相場の値崩れもあり得る。筆者は、大家ではなく消費者本位のビジネスが加速するチャンスだと主張する。
店舗ビジネスの不振が賃料に影響?
飛沫感染するウイルスを防ぐという対策の基本は、口を開けないということだとすれば、やりづらいのはむしろ小売りよりも外食産業かもしれない。マスクを外さずには飲食はできないし、外食に行く大きな理由は人とのコミュニケーションだという点からすれば、感染リスクを大幅に下げることは難しい。こうした「業種柄」といっていいハードルを外食業界では重々理解しているため、売り上げが戻らない前提で店舗網の見直しをする企業が相次いでいる。レストラン運営のロイヤルホールディングスは70店程度、ジョイフルは200店舗程度を閉店する方針を発表している。居酒屋ではコロワイド196店舗、ワタミが65店舗の閉店方針であり、あのスターバックスコーヒーでも全世界で最大400店を閉めるという。
外食産業の動きが他の業界に先駆けて早いのは、業界としての収益構造から来ているという面も大きい。次の図表は、外食や小売の上場企業から任意抽出して収益構造を比率で表したものだ。直近期の売り上げを100として、粗利、賃料、営業利益がどの割合かを示しているが、業種によって粗利率の割合が違うため、売上が仮に8割になったとき、どのくらいもうけが減るか、という影響度がざっくり分かる。
おおむね粗利率が高い外食産業では、利益額に対する売り上げ減少の影響が大きいことは一目瞭然で、食品スーパー、ドラッグストア、ホームセンターといった物販小売店よりも、減収耐性が低いことが分かる。外食各社では、こうした収益構造を踏まえた上で、今後の減収を前提として、いち早く対策を打っているのであり、経営判断としては至極妥当な判断といえる。各社の収益状況によるが、店舗網の見直しの動きは、このまま他の外食企業にも広がることが予想される。また、表から見て分かることとして、物販の小売業の中では、衣料品関連企業に同様の動きが広がることが予想できる。最近ではグローバルブランドZARAが全世界で1200店を閉めるという報道もあったが、同様の店舗網見直しが国内企業においても進むことになるだろう。
このような厳しい環境は業界にとっては、かつてない逆境となるのだが、この局面をなんとか乗り越えることができれば、その先には巻き返しのチャンスが広がっている。いったんは店舗網の縮小を余儀なくされるかもしれないが、こうした動きが進むことで賃料水準の見直しが行われるからだ。コロナ禍は、都市集中への見直しやテレワークの浸透などによりオフィス需要も低下させることが予想され、これまで上昇傾向が続いていた賃料を一定水準低下させることになるはずだ。さきほどの図表に見るように、外食の売り上げに占める賃料の割合は1割前後となっているのだが、この賃料の割合を下げることができるなら、原材料費や人件費への配分を増やす可能性が生まれるため、品質の高い商品、サービスを提供する余地が拡がる。これは消費者にとってもメリットがある話であり、地権者に払っていた価値を、消費者に還元してくれることになるのだ。
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