コロナ禍は、地権者だけが得をする「不労所得スパイラル」を食い止められるか:小売・流通アナリストの視点(3/4 ページ)
コロナで大打撃を受けている小売り・飲食業各社。その副次的影響として、今後は都市圏を中心とした家賃相場の値崩れもあり得る。筆者は、大家ではなく消費者本位のビジネスが加速するチャンスだと主張する。
消費者本位のビジネスを展開するチャンス
独断と偏見で「一消費者」としていわせてもらうなら、消費者の支払った代金に対して、付加価値を提供することで満足してもらう、というのが商売だとすれば、その付加価値を大家に還元する額は最低限にしていただきたい。
しかし、近時の大都市圏集中の進行などで、店舗ビジネスにおける不動産コストは上昇傾向にあり、消費者への付加価値還元は少しずつ抜きとられてきたといっていい。賃料への配分が増えても、消費者へのメリットはないにもかかわらず、だ。平常時には店舗運営企業同士の競争も過熱していたため、賃料の見直しなど実現可能性はほとんどなかったし、このコロナ禍でも賃料引き下げ交渉などを行っても、やすやすと応じてもらえるはずがない。こうしたときこそ、テナント側が店舗閉鎖を辞さず、一斉に見直しを決行することが、結果として賃料水準を是正することにつながるだろう。
そもそもの話をすれば、大都市圏の地権者に帰属する不動産価値(地価および賃料)の大半は、戦後の高度成長などから始まる地方からの流入人口が集積することによって、急速に拡大したものであり、その資産価値は地権者の努力によって生み出されたものではない。
戦後以来の日本経済を築いたのは産業界であり、消費経済の拡大を担ったのはそこで働く労働者であったのだが、そうした担い手は大都市地権者のようなメリットを得たわけではなかった。乱暴な言い方を承知でいえば、高度成長期前に現在の大都市圏に不動産を所有していたということだけを要件として、所有者だけに高額な宝くじが当たったようなものだ。こうした幸運の下に得た果実の再投資を繰り返すだけで、不労所得が増え続けるといった構造は、そこそこにしておいていただかないと、労働意欲や起業意欲がそがれることは明白である。コロナ禍が、こうしたひずみを是正するとのだとしたら、何とも皮肉な話ではある。
関連記事
- “密”になるほどの人気で売り上げ絶好調 「ホームセンター」はコロナを機に復権できるか?
新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、多くの業界に出された休業要請から辛うじて外れたホームセンター。緊急事態宣言下でも“密”となるほど多くの人が訪れ、多くの企業が売り上げを伸ばしている。今回のコロナ禍を機に存在感を発揮できるか。 - 都銀再編時に「ごみ箱」構想を持っていた金融庁と地銀救済で手を組むSBIホールディングスは天使か、悪魔か?
SBIホールディングスが仕掛ける「地銀救済」。陰には金融庁の影響も見え隠れするが、「証券界の暴れん坊」と目されるSBIと金融庁、それぞれの思惑とは? 過去、銀行勤務時代に大蔵省との折衝を担当していた筆者によると、90年代の都銀再編時に官僚は「ごみ箱」構想を持っていたという。 - 23年ぶり社長交代のイオンの過去と未来 衰退したダイエー、勢いを増すAmazonから分析する
23年ぶりの社長交代を発表したイオン。バブル崩壊、スーパー業界の再編の中、ダイエーが衰退した一方で同社はなぜ成長できたのか。膨大なデータ基盤で“巨大なよろず屋”はデジタル時代を勝ち抜けるか。 - 話題の「社員PC監視ツール」がテレワークを骨抜きにしてしまう、根本的理由
テレワークで従業員がサボらず仕事しているかを“監視”するシステムが話題になった。テレワークは本来「成果」を出すためなら「働く場所」を問わない制度のはず。こうしたシステムが出てくれば、テレワークが骨抜きになってしまい、生産性を高める「成果主義」が定着しない、と新田龍氏は指摘する。 - 長く低迷していたインスタント袋麺のブレイクは、“復権”の兆しなのか
これまで長く低迷してきたインスタント袋麺が、この3月から急にブレイクしている。「ステイホームの影響で売れているんでしょ」と思われたかもしれなしが、自粛解除後も売れているのだ。背景に何があるのかというと……。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.