リモートワーク普及で迫りくる「通勤定期券」が終わる日:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/5 ページ)
大手企業などがテレワークの本格導入を進める中で、通勤定期代の支給をやめる動きも目立つ。鉄道会社にとっては、通勤定期の割引率引き下げや廃止すら視野に入ってくる。通勤に伴う鉄道需要縮小は以前から予想されていた。通勤しない時代への準備はもう始まっている。
デジタルエンターテインメントを手掛けるミクシィは10月に勤務制度を刷新する。「オフィスでの就業を標準としつつ、週3日までのリモートワークを認める予定」(関連記事)。週3日のリモートワークで通勤手当はどうなるのか。他社の例では、シフト勤務形態の場合、出勤日相当の回数券代支給という制度もある。
日本経済新聞7月15日付「ヤフー、戦略立案100人を副業募集 社外人材を活用」によると、ヤフーは7000人の社員のうち約95%が社外勤務で「10月からリモートワークを恒久的な制度とする。交通費は実費精算で、定期券代の支給を廃止。社員には月7000円の在宅手当を支給する」という。
もちろん、リモートワークに向く業務と向かない業務がある。しかし富士通の8万人の衝撃は大きいし、無事に稼働すれば他の企業も倣うだろう。大企業ほどコストメリットが大きい。中小企業にとって通勤に束縛されない雇用形態は人材確保面で有効といえる。
JR東日本はリモートワーク時代を予見していた
朝日新聞7月7日付記事「JR東、運賃見直し検討『時間帯で変動』例に挙げ言及」によると、定例社長会見で運賃体系の見直しを検討しているという話が出た。新型コロナウイルス関連で鉄道利用が減り、その状況は一過性ではないと見切った。具体的には、利用客が多い時間帯と少ない時間帯で変動させる仕組みに言及。混雑を避けるため朝のピーク時間帯より早く出勤する人も増えているため、ダイヤの変更も示唆した。これは富士通の発表の翌日だ。
JR東日本は利用客減少を独自に分析し、リモートワークを含む通勤需要の動向を察知したとも言えそうだ。今となっては予言じみているけれども、2018年に発表したJR東日本グループ経営ビジョン「変革2027」で「2025年以降の東京圏は緩やかな人口減に転じる」とし、2020年以降は「働き方の変化」「ネット社会の進展」「自動運転技術の実用化」によって「鉄道による移動ニーズが縮小し、固定費割合が大きい鉄道事業においては、急激に利益が圧迫されるリスクが高い」とした。JR東日本としては通勤需要の減少は予測していた事態だった。
時間帯による変動運賃制度は珍しくない。JR東日本は実施していないけれども、東京メトロなど大手私鉄は「時差回数券」として、平日の日中と休日のみ有効な回数券を発行している。休日限定のフリーきっぷなどはJR東日本はじめ多くの鉄道事業者で販売している。ただし、これらは閑散時間帯・時期の誘客策だ。
「時間帯で変動する運賃」と言うからには、時間帯によって運賃を上げるという意味を含む。そうでなければ「割引策」と言えばいい。しかし、時間帯で変動する割引はできても、運賃の値上げは容易ではない。運賃で増収する策があるとすれば、割引施策の変更、つまり「定期券の割引率を下げる」または「定期券の廃止」となる。
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