コロナ禍で産業構造は変化しているのか:KAMIYAMA Reports(2/2 ページ)
産業構造変化の観点からみると、経済と主要株価指数は以前から乖離しており、今回のコロナ・ショックで偶然に加速した。数年かかると思われた変化が、コロナ・ショックをきっかけに一気に進んだ面はあるが、ショック自体が業種別比率の変化の方向を変えたのではない。
産業構造の変化はアクティブ投資のチャンス
米電気自動車メーカー、テスラの時価総額がトヨタ自動車を上回ったことが話題になっているが、テスラの株価はトヨタ自動車と比較すれば「夢と希望」のかたまりであることに注意が必要だ。市場は未来のテスラが今のトヨタ自動車を超えることを期待しており、今後、夢と希望が現実(実体)に置き換わると期待するならば、株価はバブルとはいえない。
別の言い方をすると、自動車メーカーの本質は、ガソリン車か電気自動車かではなく、販売網や中古車市場などに支えられた総合力と見ることができる。今後、テスラがトヨタ自動車と同程度の販売網を含めたキャパシティと収益力を世界中に作り上げていくことが、株価に反映されているとも解釈できる。
コロナ・ショックをきっかけに拡大が期待される産業分野に、ヘルスケアがある。いわゆるバイオテックは過去もこれからも同程度に期待されるだろうが、これは構造変化ではない。ワクチン供給などの大規模かつ早急な生産が必要となれば、大手の医薬品メーカーにも期待が集まる。このことは、これまでとは異なる新しい期待だ。加えて、一過性に終わる可能性や薬価引き下げ圧力のリスクがある国や地域はあるのだが、世界的な健康保険の強化も期待できる。
非接触関連も注目が続くだろう。生産現場でのIoT(モノのインターネット化)に必要なソフトウエアだけでなく、ハードウェアも重要になる。つまりロボットである。生産現場から生活の中に溶け込むわかりやすい例では、ソフトバンクの人型ロボット「ペッパー」がウェイターとして働くことが考えられる。
短期間で生活が大きく変化するのであれば、ロボットを大量生産する必要があるので、新興企業のアイデアのみならず大企業の規模のメリット(生産能力など)も重要になる。結果として、見かけほど業種別比率や売上シェアなどが変化しないかもしれない。
コロナ・ショックや米中貿易摩擦で人々の意識が変わると、市場の認識も変わりやすい。これまでの変化が市場で再認識されやすくもなる。例えば、米国のサンダース氏の人気の裏にあった格差の拡大と固定化がさらに強く認識されることになれば、社会保障や健康保険を含む政府の役割が強調され、消費を支援するならば経済成長にもつながる。
投資を考える時に、産業構造の変化は「結果」だと考えてよい。しばしばショックが原因とされるのだが、これについては、緩やかに変化していたものが、人々の認識の変化や政治の重点の変化で分かりやすくなるだけなのかもしれない。
結局のところ、政府や中央銀行の正しい対応で金利や為替が安定しているコロナ・ショックにおいては、個々の企業経営者がショックに正しく対応しているか見極めることが、株式投資をする上で大切なことだろう。産業構造の急激な変化だけではなく、業種内でも二極化が進んでいることは、将来を見据えて投資を行うアクティブ投資のチャンスといえよう。
筆者:神山直樹(かみやまなおき)
日興アセットマネジメント チーフ・ストラテジスト。長年、投資戦略やファイナンス理論に関わってきた経験をもとに、投資の参考となるテーマを取り上げます。
KAMIYAMA View チーフ・ストラテジスト神山直樹が語るマーケットと投資
関連記事
- 米国株はいま買いなのか?
新型コロナウイルスの感染拡大懸念から、世界の株式市場が揺れ動いている。例えば米株価指数は、2019年の上昇のかなりの部分を帳消しにした。それでも、世界の中でとりわけ米国株は良い投資先なのか。 - 米大統領選と経済と株価
共和党のトランプ氏(現大統領)と民主党のバイデン氏のどちらが大統領になっても、米国経済の成長率予想の差はほとんどないとみている。そもそもコロナ・ショックからの脱却において、政府や中央銀行のとるべき(とることが出来る)政策に大きな違いはない。また長期的に政策の差はあるが、経済成長全体に与える影響は小さい。 - コロナ後のインフレを考える
エジンバラやロンドン拠点の株式・債券のファンドマネジャーから、これから5年程度の中長期で投資環境を考えるときには「世界的なインフレの可能性」を想定した方が良い、という話題が出された。後になって振り返ってみると転換点になっているかもしれない、ということだ。 - コロナ・ショック後の経済成長と景気
コロナ・ショックは、失業者数などでみるとリーマン・ショックを超えるとみられるが、財政出動や金融支援、ロックダウン(都市封鎖)などの解除で短期間でいったん終息するとみている。そうなれば景気サイクルとみてよいだろう。 - コロナ後の世界 緊急事態から格差縮小へ
財政政策の重要性について、コロナ・ショックの前後で社会の認識が大きく変わる。財政政策を担当する政府と、金融政策を担当する中央銀行の重要性が増すだろう。「コロナ後」の人々は、政府の管理などを以前よりも信頼するようになり、“自由からの逃走”(権力への依存)の傾向が強まるかもしれない。また、GAFAなどと呼ばれるSNSの「プラットフォーマー」たちは、社会的存在意義が増すとみている。 - コロナ対策で世界の財政は崩壊しない
政府財政の悪化がどのくらい許されるのか、という問いに、明確な答えは見当たらない。しかし、インフレあるいは期待インフレ率の上昇により、人々の期待もそれに追随する傾向にある。アフター・コロナの時代は、財政政策が重要となり、5〜10年の単位で見れば、再び金利上昇トレンドに転ずる可能性がある。
© Nikko Asset Management Co., Ltd.