「5000円分還元」にとどまらないマイナポイント事業の効果と、真の狙いとは?:小売・流通アナリストの視点(2/4 ページ)
6月に終了したキャッシュレス還元に続く、マイナポイント事業。登録・利用で1人につき5000円分のポイント還元を受けられるが、それ以上に得られるものがあると筆者は解説する。キャッシュレス政策が持つ真の狙いに迫る。
ところで、このキャッシュレス・消費者還元事業という施策は、そもそも、19年10月の消費税引き上げに当たっての需要喚起策であったことを、忘れてしまっている人も多いのではないだろうか。消費税引き上げ時には、2ポイントの増税幅に対して、2%か5%のキャッシュレス還元を付与すること、加えて、キャッシュレス決済事業者によるさらなるポイント還元競争があり、消費の落ち込みを希薄化することが期待されていた。小売りウォッチャーとしては、こうしたポイントと消費の関係がどうなるかについて事後検証したいと思っていたが、今となってはコロナ禍の影響で、因果関係が全く分からなくなってしまった。
コロナ自粛とウィズコロナ生活によって、統計データに基づいて増税と消費喚起策の影響を分析することは、ほぼ不可能になったのだ。ただ、キャッシュレス事業の本来の目的は消費喚起にあるわけではない。キャッシュレス化によって、国民の経済活動をデジタルに記録することで徴税に関する調査検証インフラを構築するという中長期的なミッションがある。そのためにもキャッシュレス決済の普及は、必須の環境整備となるのだ。
ここまで述べたように日本におけるキャッシュレス化は、キャッシュレス事業を経ても、まだまだ浸透したとは言い難い。消費税対策が終わってしまった後、次の公的後押しといえば、マイナポイント還元事業に期待ということになる。
マイナポイント事業の「真の狙い」とは
既にご存じの方も多いと思うが、マイナポイント事業とはざっくりいえばマイナンバーカード保有者がキャッシュレス決済手段を1つ登録し、その決済を使うことで、ポイントとして還元するというキャンペーンのことだ。決済額の25%還元ながら、上限は1人当たり5000円と微妙な水準ではあるが、子どもでも登録できるので、家族4人なら上限2万円となり、ちょっと無視できない金額になる。加えて、決済手段の登録は1社のみで変更不可という条件があるために、キャッシュレス決済各社では、自社ポイントを上乗せして登録獲得競争に乗り出している状況だ。両方合わせれば結構なメリットもあり、キャッシュレス利用の浸透と消費喚起の効果は一定程度の効果はあるだろう。
ただ、このマイナポイントの具体的な目的とは、いまだ国民の17%(20年6月時点)程度までしか浸透していないマイナンバーカードの普及率を大きく上げる、ということにあるのは間違いない。徴税インフラの構築には、経済活動データのデジタル化と個人を認識するIDの両方が必要になるからで、キャッシュレス化と同時に、IDとしてのマイナンバーカードの普及が並行して重要な課題となっている。従って、こうしたインセンティブによって、マイナンバーカードの作成に踏み切る人がどのくらいいるのかによって、このキャンペーンの参加規模が大きく変わってくる。ただし、これまでもなかなか進まなかったマイナンバーカードの普及が、このキャンペーンぐらいでは大して進まないという見方の人も多く、キャッシュレス化の推進や経済的な波及効果についても懐疑的な見方は多いようだ。
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