長期的に円高の可能性はあるか:KAMIYAMA Reports(2/3 ページ)
米ドル(対円)は短期的に大きな変化はないと想定している。弊社の2021年6月予想は1米ドル=108.50円(以下、1米ドルを省略)である。15年11月以降のトランプラリーでいったん100円程度から118円程度まで米ドル高となり、その後はおおむね105〜115円の範囲内で推移している。もちろん為替を予想することは難しいが、現時点では、今後もこの範囲を大きく逸脱すると考える理由が見当たらない。
長期的に米ドル安・円高の可能性は低いとみる
長期的な米ドル(対円)の方向性について、米国政治の不安定化やグローバル化の逆転、中国の台頭と米国の経済的地位低下による米ドル基軸通貨の終焉(しゅうえん)などが、長期的な米ドル安を想起させる。しかし、これらの理由は現時点でそれほど説得力があるわけではなく、米ドルの地位と価値の大幅な低下傾向が長く続くとは考えにくい。
米国はトランプ政権で内向き志向が明確になり、コロナ・ショックで世界的なバリューチェーンの見直しが行われ、中国のGDPの世界シェアはこれからも拡大しよう。しかし、このことが米ドル安を意味するとは考えにくい。米国はオバマ政権期に「米国は世界の警察ではない」と述べており、それは外交的な介入度合いの低下を意図していたのだろう。
トランプ政権が同じ発言をするとすれば、それは安全保障の費用負担の変更を意味することになるだろう。だからといって米国中心の世界秩序は大きく変わらない。米国の空母が台湾海峡を通過する一方で、中国の空母がメキシコ湾に出没するわけではない。
米ドルが基軸通貨であることは、世界貿易の主な決済通貨が米ドルだという意味だ。例えば、ドイツ企業がアフリカ企業と貿易を行っても、米ドルで決済されるだろう。これは第二次大戦後の世界経済の復興期に、当時もっとも経済力があり戦災がなかった米国の通貨が信頼されたことが(米国の外交努力の成果もあり)背景にある。
一帯一路に関わる地域などを除き、ドイツ企業がアフリカ企業との貿易を人民元で決済する可能性は極めて低い。基軸通貨になるためには、国力だけではなく、資本市場の開放や金融規制の安定と信頼が必要になるからだ。中国の現状の政治体制のもとで、人民元が基軸通貨となる可能性は低い。米国は、経済制裁などで強い力を持つ基軸通貨の地位を意図的に捨てることもないだろう。
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