2015年7月27日以前の記事
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一流雑誌で相次ぐコロナ論文「撤回」と、煽るメディアの罪河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(3/4 ページ)

コロナ禍で真偽不明の情報があふれる“インフォデミック”が問題だ。科学の世界でも、大手医学誌で相次いで新型コロナの論文が撤回される事態になった。情報があふれる中、単純化して煽るメディアをうのみにせず、疑いの目を持つことが必要だ。

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1日137本発表の“異常事態”

 いかなる分野においても、「元データ」は研究の命です。元データに誤りがあれば、当然分析結果も間違ったものになってしまいます。そのデータの提出を拒んだ理由は分かりませんが、ひょっとすると研究者側も何とかアピールしたい、自分たちのすごさを訴えたい、という競争意識が背景にあったのかもしれません。

 例えば、感染拡大が本格化した2月から6月までの間に少なくとも1万8000件近くが米国の論文データベースに収載され、1日にすると137本程度(シンガポールの研究者の報告)。2009年の新型インフルエンザの時は、1日あたりの論文数は6本程度でしたので、異常としかいいようがありません。


迅速な情報提供が求められ、査読が甘くなったという批判もある(写真提供:ゲッティイメージズ)

 本来、いかなる分野のジャーナルであれ、査読付きの場合には、その研究分野に精通するレフリーが2〜3人つきます。そして、最初のレフリーが「箸にも棒にもかからない=論文掲載は×(バツ)」と判断すれば、リジェクトされます。

 一方、「議論の価値あり=△(サンカク)」と判断された場合には、筆頭論文執筆者は、「これでもか!」というほど、レフリーから重箱の隅をつつかれ、やりとりを繰り返します。指摘の一つ一つに対し、相手を納得させるだけのエビデンスを示し、論文を修正する。このやりとりが実に厳しく、知力も、体力も、そして、気力もいる作業なのです。

 なんといっても相手はプロ中のプロ。さまざまな視点からも議論できるプロフェッショナルの研究者を納得させるのは極めて難しい。論文執筆者は、査読を通すためにとことん考え抜く作業を繰り返し行います。

 私も研究者の端くれなので、海外の産業心理学系や公衆衛生系のジャーナルに投稿することがありますが、1回目の査読で指摘された点を、決められた期日までに修正し、その結果にNGを出され、ジ・エンドとなることもあれば、2回目の査読で新たに重箱の隅をつつかれ、さらなる修正を求められることもある。そこで「やっぱダメね」とリジェクトされてしまうときもあれば、査読はどうにかくぐり抜けても、最後の最後で編集部からNGを出されてしまうこともごくたまにあります(編集部にNGをだされた経験は私にはないが)。

 とにかく骨が折れる。しんどい。ですが、それ以上の収穫もあります。レフリーとのやりとりでは学ぶことが多く、論文が掲載される間にわずかながら成長できるのです。

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