一流雑誌で相次ぐコロナ論文「撤回」と、煽るメディアの罪:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(4/4 ページ)
コロナ禍で真偽不明の情報があふれる“インフォデミック”が問題だ。科学の世界でも、大手医学誌で相次いで新型コロナの論文が撤回される事態になった。情報があふれる中、単純化して煽るメディアをうのみにせず、疑いの目を持つことが必要だ。
新型コロナで情報氾濫、「スピード重視で査読が甘い」批判も
少々話が逸れたので元に戻すと、権威あるジャーナルで「論文撤回」などという事態が生じたのは、新型コロナの治療法も確立しておらず、迅速な情報提供が求められてきたため、「スピードを重視するあまり査読が甘くなったのでは?」と批判されているのです。
いずれにせよ、件のジャーナル以外でも論文撤回が相次いでますし、ここ数年は査読前の論文をWebで公開できる仕組みが一般的になり、その論文に基づく知見をメディアが報じるケースも存在します。
とにもかくにも現状のままだと、科学の信頼性が損なわれてしまいます。そこで米マサチューセッツ工科大の出版部門は投稿された注目論文を評価する試みを始めたそうです。
……なんとも。残念な話ではありますが、情報の受け手側になる「私」たちも、むやみにSNSの情報に振り回されないで、まずは「これってホント?」と疑いの目を持つことを忘れないことが肝心です。
繰り返しますが、メディアはいつの時代もセンセーショナルな情報を求めます。一方、科学は研究者たちの地道な積み重ねがあって、初めて「うそのような本当の話」が出来上がるのです。科学とメディアは水と油だということを頭の片隅に置いておくことも大切かもしれません。
河合薫氏のプロフィール:
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)
お知らせ
新刊『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)が発売になりました!
失業、貧困、孤立――。新型コロナウイルスによって社会に出てきた問題は、日本社会にあった“ひずみ”が噴出したにすぎません。
この国の社会のベースは1970年代のまま。40年間で「家族のカタチ」「雇用のカタチ」「人口構成のカタチ」は大きく変化しているのに、それを無視した「昭和おじさん社会」が続いていることが、ひずみを生み続けています。
コロナ禍を経て、昭和モデルで動いてきた社会はどうなってしまうのか――。
「日経ビジネス電子版」の長期連載を大幅に加筆し、新書化しました。
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