最近よく聞く「ジョブ型雇用」の掛け声がどこか空疎に思える、これだけの理由:働き方の「今」を知る(4/5 ページ)
注目が集まるジョブ型雇用。やや言葉だけが独り歩きしている感もあるが、大手でも導入が進み「ジョブディスクリプション」の整備も進む。しかし、筆者の新田氏はジョブディスクリプションの整備だけでジョブ型の定着には不十分だと指摘する。
- 求められることや責任範囲が明確となり、組織―従業員間における「こんなはずじゃなかった」といったミスマッチ、ミスコミュニケーションが防止できる
- 何をすれば評価されるか分かりやすくなるため、努力すべき方向性が明確になり、従業員と組織のパフォーマンス向上につながる
- ポジションに対するコスト(人件費)とリターン(期待業績)が明確になり、採用計画や事業計画の見通しが立てやすくなる
- ポジションにおける役割や資質が明文化されているため、不採用時やマイナス評価時であっても差別や不当な扱いをしたわけではないことの証明となり、訴訟リスクを防げる
一方で、デメリットも当然ながら存在する。例えば、次のような点が考えられよう。
- 従業員が「明示された職務内容以外は担当しなくともよい」、という意識になりやすく、ゼネラリスト育成を前提とするマネジメント体制との相性が悪い
- JDの範囲を超えた業務を依頼しにくく、臨機応変な担当業務変更や異動などに対応しにくい
- 異動や昇進などで担当業務範囲が拡大する場合、それに合わせたJDの変更と、業務範囲が広がった分の昇給もセットにする必要性が出てくる場合もある
このように、従業員同士がお互いにサポートし合って仕事を仕上げ、業務や部門の垣根を超えて改善していく――というような日本的チームワークが根付いている職場においては、JDを基にしたマネジメントは齟齬を来たす可能性がある。またJDだけのせいではないものの、「その人しか対応できない専門的な業務」があちこちで生まれてしまうと、その人が異動したり退職したりした場合、適切な後任者が見つからなければ全体の業務に支障が及ぶリスクが生じる点も認識しておきたい。
生産性向上を阻む「出世テクニック」はなくなるか
筆者が就活生であった約20年前からずっと、「日本型雇用は崩壊する」「これからは成果主義の時代」と言われ続けてきたが、ようやく形になるきっかけとなったのは今般のコロナ禍なのかもしれない。
「勤続年数に応じてポストと報酬を与え、かつクビにはしない」という年功序列と終身雇用が成立するためには、会社の業績も規模も永久に成長し続けなければならない。しかし、バブル崩壊とその後の失われた30年によって、そのようなことは現実的には不可能と皆が認識し始めた。そこに今回のコロナ禍が来たことで、各社ともこれからの環境変化に対応するため、重い腰を上げざるを得なくなったというところであろう。
実際、成果主義的な人事制度にメリットがあることは各社とも頭では分かっていても、その導入のために全ての職種についてJDをそろえ、報酬や評価制度も抜本的に見直すところまでは至っていなかった。そのために膨大な手間がかかることはもちろんだが、これまでにない試みに対してリスクを負い切れないし、何より「成果」よりも「熱心に長時間労働しているフリ」や「上司への徹底的な追従」などのテクニックで出世していった人たちにとって、「成果で測られることは迷惑」といった事情もあったのだろう。
しかし、コロナ下の緊急事態宣言を受けて多くの企業が「強制的テレワークお試し期間」をへたことで、「ジョブ型」制度の必要性を痛感した結果が、今の流れを形作っているといえよう。従業員を出勤させられない以上、職務を切り分けて各人にリモートで対応させるしかない。そして評価も目に見える「働きぶり」ではなく、各人に与えた業務に対する成果でおこなうしかなくなった以上、職務給であるジョブ型でないと対応できなくなったわけだ。
ジョブ型雇用は万能の特効薬ではない
では、「これからの時代に合った働き方だから、すぐに仕組みを変えよう!!」となるのだろうか。筆者としては、日本と諸外国との文化的背景や法制、そして判例の違いにより、なかなか実現は困難であろうと考えている。
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