NTTから分離したドコモ、28年で元サヤに 真の狙いは?: 古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)
NTTは同社が支配株主となっている携帯子会社のNTTドコモを、TOB(公開買付) によって完全子会社化する。1985年の旧電電公社民営化と、92年のNTTドコモ分離を経て、およそ28年で元のサヤに収まるかたちとなった。その背景にはどのような要因が考えられるのだろうか。
親子上場のメリットなくなる?
20年は、親会社と子会社が同時に上場する「親子上場」を解消する動きが相次いだ。5月には、ソニーが金融子会社のソニーフィナンシャルホールディングスを4000億円で完全子会社化する方針を固め、本連載でもこの事案から後述する親子上場の問題点について触れた(関連記事)。
その記事の中でも、親子上場の典型例として「NTTとNTTドコモ」が登場したが、その後も伊藤忠商事がファミリーマートを完全子会社化する方針を固めたり、日立が日立ハイテクをTOBして完全子会社化したりするなど、親子上場の解消に向けたグループ再編の動きが近年相次いでいる。
それでは、NTTとNTTドコモが親子上場を解消する要因と考えられるのは、どのような点であろうか。まずは簡単に親子上場の特徴をおさらいしよう。
親子上場をすると、一般的に子会社株式の流動性の向上により株式としての価値が高まり、グループ全体の資産価値が向上することとなる。そして、子会社株式でファイナンスを行えば、親会社の資金繰りをも間接的に助けることができる。
一方で、子会社側からすれば、株主としての意思決定権が親会社側に握られていることで、配当政策やガバナンス面で少数株主や子会社の独立性き損や搾取、親子間の対立によるシナジーの低下が企業価値の最大化を阻むというデメリットもある。親子上場をしている会社の時価総額は、そのデメリットの分だけ割引されて評価される傾向があり、本質的な価値よりも割安で放置されやすい。
ここで、NTTドコモの周辺環境を考えると、同社は政府の「値下げ」イメージ先行による株価下落で企業価値が大きく下落している。さらに、NTTドコモは5Gに1兆円を投じる予定であり、巨額の設備投資を準備しなければならない。
ここで、NTTドコモが自社の株式を用いて資金調達を行ってしまえば、下がった株価で資金を調達することになるため、同じ調達額で株式をより希薄化させてしまう恐れがある。つまりTOB前のNTTドコモの株価は、親子上場を維持することに堪えない水準まで下落していた。グループ全体の利益を考えれば、NTTの完全子会社として5G関連の事業を進める方が、菅政権の発言ひとつで株価が揺れにくくなり、市場の思惑に左右されにくい資金の調達といった事業展開が期待できる。
NTTのように、携帯会社を傘下にもつソフトバンクグループ(SBG)でも親子上場が解消されるかもしれない。同社はMBOによって上場を廃止するという観測が一部で報じられており、これも実現すれば携帯子会社のソフトバンクとの親子上場が解消されることとなる。
「値下げ」と「5G」という2つの“国策”が取り巻く携帯業界。値下げによる過度な株価下落を防ぎ、5Gという大事業を成し遂げるために、NTTとNTTドコモは旧電電公社まではいかないまでも、元サヤに戻り「大きな会社」として動く方向に踏み切ったのではないだろうか。
【訂正:2日16:30分 初出でNTT民営化の年が誤っておりました。お詫びし訂正いたします。】
筆者プロフィール:古田拓也 オコスモ代表/1級FP技能士
中央大学法学部卒業後、Finatextに入社し、グループ証券会社スマートプラスの設立やアプリケーションの企画開発を行った。現在はFinatextのサービスディレクターとして勤務し、法人向けのサービス企画を行う傍ら、オコスモの代表としてメディア記事の執筆・監修を手掛けている。
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