ソニーの金融子会社化から考える“親子上場天国ニッポン”の今後:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(1/2 ページ)
「ソニー」は、「ソニーグループ」と改名。そして金融子会社の「ソニーフィナンシャルホールディングス」をTOBで完全子会社化する。こうした親子上場解消の動きは増加しているが、背景には諸外国に比べて親子上場がたくさんある、日本市場の特徴がある。
ソニーの経営改革に注目が集まっている。これまで持ち株会社の名称であった「ソニー」は、「ソニーグループ」と改名する。従来の社名であった「ソニー」は、エレクトロニクス事業を取り扱う子会社が襲名するかたちとなる。
また、同社は子会社であるソニーフィナンシャルホールディングス(SFHD)に4000億円規模の株式公開買付(TOB)を実施し、完全子会社化することを決定した。グループ収益の中でも、中核を担う生命保険をはじめとした金融事業を完全子会社化することで、安定的な収益源を内部に取り込む公算とみられる。
SFHDは上場廃止となり、ソニーとの親子上場関係が解消されることとなる。これによりソニーの親子上場関係は残すところ、SMN(ソネット)とSREホールディングスの2社のみとなる。実は、このような親子上場関係の解消の動きがここ数カ月で増加していることをご存知だろうか。
19年11月には東芝が上場子会社3社を、三菱ケミカルHDが田辺三菱製薬を完全子会社化した。また、日立製作所が上場子会社の日立化成を、昭和電工の完全子会社として売却するといった動きがあった。
今回のソニーも親子上場関係の解消の動きのひとつとなるが、その背景にはどのような事情があるのだろうか。まずは日本における親子上場の現状から確認したい。
“親子上場天国”の日本
そもそも、親子上場とは、親会社と同時にその子会社も上場している状態をいう。今回完全子会社化されるSFHDは、株式の65%を親会社のソニーに保有されている。また、同社は東証1部に上場しているため、同社はソニーとの間で親子上場関係にある。
親子上場は枚挙にいとまがない。「ソフトバンクグループと通信子会社のソフトバンク」「NTTとNTTドコモ」「日本郵政とゆうちょ銀行」といったメジャーな企業グループを中心に、国内では足元で238の親子上場が存在する。
数百という規模の親子上場が見られるのは、世界的にも日本市場くらいである。経済産業省が今年1月にまとめた「上場子会社に関するガバナンスの在り方」によれば、海外市場における親子上場企業は英国で0社、米国で28社、ドイツで17社となっている。ここからも、日本市場の親子上場企業数が突出している様子が伺える。
確かに、親子上場にはメリットもある。例えば、子会社株式が上場すれば流動性の増加により株式価値が高まり、グループ全体で見た資産価値が上昇する。さらに、子会社株式を上場に際して売り出すことによって、親会社は資金調達を行うこともできる。
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