ソニーの金融子会社化から考える“親子上場天国ニッポン”の今後:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)
「ソニー」は、「ソニーグループ」と改名。そして金融子会社の「ソニーフィナンシャルホールディングス」をTOBで完全子会社化する。こうした親子上場解消の動きは増加しているが、背景には諸外国に比べて親子上場がたくさんある、日本市場の特徴がある。
しかし、親子上場はデメリットも大きい。一般的に、持ち株会社はグループ全体のシナジーを踏まえた全体最適な経営戦略を取るが、これは時に上場子会社や少数株主との利益相反となり得る。なぜなら、上場子会社単体として最も利益を最大化できたはずの意思決定が親会社の都合で実行できない場合もあるからだ。
18年12月のソフトバンク上場では、親会社のソフトバンクグループは通信子会社のソフトバンク上場によって2.6兆円の資金調達に成功した。同社はこの資金を元手に後のベンチャー投資を加速させることとなる。
しかし、本来は上場企業として独立性が担保されるべきソフトバンクは、株式の67%をソフトバンクグループに保有されている。そうである以上、同社が通信子会社であるソフトバンクに対して、グループの都合で配当を多めに支払わせる、いわゆる“お財布”扱いとすることも不可能ではない。このような構図が、「子会社の搾取ならびに、少数株主の利益を毀損する可能性がある」という点で、批判の声も根強かった。
そのため、一般的に上場子会社は親会社によって上場企業としての独立性が脅かされるリスクがあり、その分だけ割安な価格で放置される傾向がある。その一方で、上場子会社が過度に独立性を主張すれば、今度はグループ全体の利益を毀損するリスクがあるため、親会社の企業価値が割引かれるおそれもある。これが親子上場による利益相反の構図だ。
親会社に対する踏み込んだガバナンス整備が重要?
米国やドイツなどでは、親会社が上場子会社および少数株主に対して、フィデューシャリー・デューティ(受託者責任)を負うという裁判例が存在しており、親会社の損害賠償責任や少数株主に不利な決定の差止めを認めた例もある。つまり海外では、親会社の支配的な意思決定で少数株主の利益が害されていると考えられると、少数株主側から株主代表訴訟を提起される可能性が高いわけだ。海外における親子上場が少ない要因は、このような少数株主によるガバナンス面での抑止力が働いている側面にもあるだろう。
実は、日本においても2月に親子上場をめぐる東証規則が改正された。その趣旨は「上場子会社における独立した意思決定を確保し、少数株主の利益を保護するため」に、親会社のガバナンス体制を強化するものである。具体的には、上場子会社における独立役員の基準を強化したり、上場子会社のガバナンス体制の実効性確保に関する方策を報告書として開示することなどを、親会社に求めたりするものである。
しかし、東証の規則改正という側面のみでは、親会社による上場子会社の搾取的である疑いのある運用に対して、少数株主が株主代表訴訟を起こすといったことは未だ難しいと考えられる。そこで海外と同様に、親会社が子会社利益最大化に対してフィデューシャリー・デューティを負うなどといった内容の法整備も、親子上場解消の動きを加速化させる上で重要であると考えられる。
筆者プロフィール:古田拓也 オコスモ代表/1級FP技能士
中央大学法学部卒業後、Finatextに入社し、グループ証券会社スマートプラスの設立やアプリケーションの企画開発を行った。現在はFinatextのサービスディレクターとして勤務し、法人向けのサービス企画を行う傍ら、オコスモの代表としてメディア記事の執筆・監修を手掛けている。
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