デジタルで「4P」はどう変わる ウーバーイーツがけん引する、「流通」政策の今:「新時代」のマーケティング教室(1/3 ページ)
マーケティング理論として知られる「マーケティング・ミックス」(4P)。デジタル時代にどう変わっている? 東京都立大学経済経営学部の水越康介教授が解説する。
デジタル時代のマーケティング・ミックス
製品政策、価格政策、流通政策、そしてプロモーション政策の4つを、対象となる顧客に合わせて組み合わせるフレームワークをマーケティング・ミックス(4P)と呼ぶ。マーケティング・ミックスは、各要素の組み合わせの理論であるとともに、それぞれの要素が個別の研究領域と結び付きながら独自に発展を遂げてきた。
デジタル時代におけるマーケティングを考える時も、マーケティング・ミックスは役に立つ。前回も紹介したように、デジタル時代におけるマーケティングは、「顧客の参加」を大きな特徴とする。マーケティング4.0では、製品政策は共創政策へ、価格政策は通貨政策へ、流通政策は共同活性化政策へ、そしてプロモーション政策はコミュニケーション政策へと形を変える。前回の通貨政策に引き続き、今回は共同活性化政策を考えよう。
「共同活性化」の先駆けとなったシェアリングサービス
共同活性化(Communal activation)政策とは、旧来のマーケティング・ミックスにおける「流通(Place)」チャネルへの「顧客の参加」を意味する。共同活性化に関する最も典型的なサービスは、新型コロナ流行もあって日本でも急速に広がりをみせているウーバーイーツである。
もともと、共同活性化として最初に注目されたのは、シェアリングサービスやライドシェアサービスであり、ウーバーとエアビーアンドビーの成功が大きかった。これらのサービスを支えるのは、繰り返しになるがスマートフォンを中心としたデジタルの急速な発展である。
例えば、2009年に登場したウーバーの配車サービスは、サービスに対して通信技術がまだ万全とはいえず、うまく機能しなかった。もともとウーバーが想定していたのは映画シリーズ『007』のような世界だったとされる。主人公が追跡する敵の自動車がリアルタイムに表示される画面を見て、同じことが、タクシーでもスマホを用いてできるのではないかと考えたという。
ウーバーもエアビーアンドビーも、知らない人の車に乗ったり知らない人の家に泊まったりするとリスクがあるが、これにうまく対応することができる。運転手やオーナーに対するこれまでの評価は蓄積され、予約時に確認することができるし、運転手やオーナーからすれば自分のサービスが評価され、その評価が次の予約に影響するため、よりよいサービスの提供を心掛けるようになっている。同様に、利用者も評価されている。お互いのリスクがデジタル技術によって軽減され、今ではサービス品質の向上をもたらしている。
ちなみに、これまで見てきた共創政策や通貨政策とは異なり、共同活性化政策は既存のサービスや既存の社会制度と競合しやすい。元来、流通政策はメーカーと流通業者の企業間取引に関わっており、利害関係者が多いからである。実際に日本では、ウーバーはタクシー業界をはじめ既存の社会制度との兼ね合いで配車サービスとしてはうまく参入できていない。また、エアビーアンドービーも同様に民泊に関する法規制など制約が多い。この点では、ウーバーイーツは日本での発展のきっかけをつかんでいるといえる。
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