ボーナスは“特権”か 「低賃金で何が悪い?」正当化され続ける非正規格差:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(2/4 ページ)
非正規社員の賞与や退職金を巡る判決があったが、すぐに議論は鎮火した。女性を低賃金で雇うことが当たり前になった時代から変わっていない。非正規労働者は増加し、貧困問題に発展しているのに「自己責任」で片付けてきた。雇用問題の在り方から議論が必要だ。
「女性? 低賃金で何が悪い?」40年前の価値観が現在につながる
先に結論を言っておきますと、非正規の低賃金問題の根っこにあるのは「性差別」です。「女性? 低賃金で何が悪い?」という40年前の間違った価値観が、非正規全般の低賃金の容認につながっています。
時代をさかのぼること、今から60年以上前の1950年代。高度成長期に突入した日本では、「臨時工」を増やしてきました。臨時工とは、今でいう非正規です。
高度成長期に企業は本工(=正規雇用)より賃金の安い臨時工を増やすことで、生産性を向上させていたのです。
当時、臨時工の低賃金と雇用形態の不安定さは、労働法上の争点として繰り返し議論され、大きな社会問題に発展。国を動かしました。
政府は1966年、「不安定な雇用状態の是正を図るため、雇用形態の改善等を促進するために必要な施策を充実すること」を基本方針に掲げ、「不安定な雇用者の減少」「賃金等の差別撤廃」を重要な政策目標に位置付けたのです。
ところが、1970年代になると需要が拡大し、人手不足解消に臨時工を本工として登用する企業が相次ぎました。その結果、臨時工問題は自然消滅。が、その一方で、主婦を「パート」として安い賃金で雇う企業が増えていったのです。
パートからも臨時工同様に、「賃金差別をなくせ!」という声が上がりましたが、「女」であることから賛同する声は少なかった。本工と臨時工の格差問題では「家族持ちの世帯主の男性の賃金が安いのはおかしい」という声に、政府も企業もなんらかの手だてを講じる必要に迫られましたが、パートは主婦だったため、あまり議論が盛り上がらなかったのです。
「本来、女性は家庭を守る存在であり、家族を養わなくてもいい人たち」という“世帯思想”のもと、「パート(=主婦)は、あくまでも家計補助的な働き方」という考えが当たり前となり、賃金問題は置き去りにされてしまったのです。
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