ボーナスは“特権”か 「低賃金で何が悪い?」正当化され続ける非正規格差:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(3/4 ページ)
非正規社員の賞与や退職金を巡る判決があったが、すぐに議論は鎮火した。女性を低賃金で雇うことが当たり前になった時代から変わっていない。非正規労働者は増加し、貧困問題に発展しているのに「自己責任」で片付けてきた。雇用問題の在り方から議論が必要だ。
「非正規は自己責任」で片付けてきた
その“当たり前”は、現場でパートが量的にも質的にも基幹的な存在になっても、変わりませんでした。どんなに婦人団体が抗議しても「パートはしょせん主婦。男性正社員とは身分が違う」という、性差別で反論されてしまいました。
こういった価値観を表沙汰にするのは、今だったら「即刻アウト!」です。しかし、根っこの部分は今も変わっていないのです。
なにせいまだに「非正規は本人の自己責任」「努力が足りない」「勉強してこなかったから」などと、“個人”の問題にする人たちがいます。氷河期世代に代表される通り、非正規と正社員の境目は、その時代の経済状況など“環境”要因による影響が大きいのに、格差が広がれば広がるほど「自己責任」として片付けられてしまうのです。
いずれにせよ、人間の価値観はそうそう簡単に変わるものではないし、心はそれまで培ってきた習慣で動かされます。目の前に存在する絶対的な事実でさえ、視覚機能を無意識にコントロールし、見たいものだけを能動的に見る術を人は持っている。おまけに、人はしばしば自分でも気が付かないうちに「権力」の影響を受け、その影響力は極めて強力かつ広範囲にもたらされます。
つまり、非正規を雇う側の人たちは、“昭和のエリート”が大勢を占めています。正社員が当たり前、長期雇用が当たり前、会社に尽くして当たり前という時代に大手を振って闊歩してきた“昭和のエリート”が陣頭指揮をとったことで、不幸にも「非正規=低賃金で当たり前」が維持されてきた。
おまけに、彼らは「しょせん他人事」ですから、問題が起きて、ひずみから血が噴き出そうとも、ひたすらばんそうこうを貼るだけで対応してきました。なぜ、その傷ができたのかを考えることもせず、ばんそうこう対策をとり続けたことで新たな問題が生まれ、非正規問題は貧困問題になり、年金が少なくて困窮する高齢者の増加など、どんどんと社会全体が貧しくなってしまったのです。
関連記事
- 賃金は減り、リストラが加速…… ミドル社員を脅かす「同一労働同一賃金」の新時代
2020年は「同一労働同一賃金」制度が始まる。一方、厚労省が示した「均衡待遇」という言葉からは、正社員の賃金が下がったり、中高年のリストラが加速したりする可能性も見える。そんな時代の変わり目には、私たち自身も働き方と向き合い続ける必要がある。 - 「もう、諦めるしかない」 中高年化する就職氷河期世代を追い込む“負の連鎖”
40歳前後になった「就職氷河期」世代に対する支援に、国を挙げて取り組むことを安倍首相が表明した。しかし、就職時の不況や非正規雇用の拡大など、さまざまな社会的要因によって追い詰められた人たちの問題は根が深い。実効性のある支援ができるのか。 - ワタミは違法残業、勤務記録改ざんも…… 問題企業のトップが見ていない、過重労働の現実
ワタミが宅食事業のグループ会社で残業代未払いがあったとして是正勧告を受けた。勤務記録の改ざんもあったという。同社は労働環境の改善に努めていたはず。組織のトップと従業員たちに断絶があったのではないか。残業は単なるカネの問題ではなく、命の問題だ。 - 自分も切られる―― 加速する「人減らし」 コロナ禍を生き抜く、“人を守る”知恵
「そのうち自分も切られる」――正社員でもそんな不安を抱えている。企業の“人減らし”は、コロナ禍によってさらに加速している。そんな中、「働くこと」を守る取り組みも始まっている。雇用維持のために助け合える企業こそ、生き残っていけるのではないか。 - 「上司の顔色伺い」は激減? テレワークでは通用しない“働かないおじさん”
新型コロナによって、多くの企業がテレワークや在宅勤務の導入を余儀なくされた。今後は新しい働き方として定着していくだろう。そうなると、上司と部下の関係も変わる。前例や慣習が通じない世界が待っている中、新しい上司部下関係を構築していく必要がある。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.