島忠へのTOB どちらに転んでもニトリにはメリットしかない理由:王手飛車取り(3/4 ページ)
ニトリが島忠の買収に名乗りを上げた。筆者は仮に買収できないとしても、ニトリにとっては大きなメリットがあると指摘する。その姿は、かつてのドン・キホーテと重なるという。
ドンキが一般消費者に浸透したきっかけはTOB合戦
今回のニトリの報道を見てみると、まだホームセンターにとってニトリが脅威になるという論調の記事は少ないように感じられる。
これは、実態はホームファッションのお店に変わっているのに、まだまだ「家具屋」というイメージを持っている消費者が多いということもあるだろう。家具以外を購入する際、ニトリを想起する消費者をいかに増やしていくか。コロナの追い風が止んだ後にも増収増益を続けるためには不可欠な要素だろう。
こういったイメージチェンジの観点からも、今回のTOB合戦において、ニトリが受ける恩恵は大きい。
筆者は、ニトリ同様に “覇道”を突き進む小売専門店の勝ち組としてドン・キホーテ(現パンパシフィックインターナショナルホールディングス、以下、PPIH)が挙げられると考えている。
PPIHは、前期までに31年増収増益という驚異的な成長を果たしている。20年6月期に売上高1兆6819億円、営業利益759億円を達成。19年1月、中部地方を地盤とする小売大手ユニーを買収し、国内小売グループとしてイオン、セブン&アイグループに次ぐ地位を確立している。
巨大チェーンに発展したPPIHだが、かつてドン・キホーテは、「あやしいディスカウントの店」というイメージがあった。そのため、誰もが利用するような業態としては、あまり一般消費者に受け入れられてはいなかった。
そんなドン・キホーテが一般に浸透するきっかけになったのが、05年のオリジン東秀買収だ。イオンとTOB合戦を繰り広げ、大きくメディアに報道された。
TOBを仕掛ける前の05年6月期には、16年連続の増収増益を達成。独自のディスカウントストアとして、驚異的な業績拡大を続けていた。当時にして、すでに“勝ち組”の小売業であった。
強い集客力を持つドン・キホーテ業態を更に進化させようと、総菜に強い「オリジン弁当」を展開するオリジン東秀の株式を買い増して、子会社にしようとした。これに対し、オリジン東秀側が反発。イオンが買収することで、終結した。当時は珍しい「ホワイトナイト(白馬の騎士、敵対的買収を嫌がる会社に友好的な買収相手が登場すること)」などが注目された。この“買収劇”は、当時メディアに大きく報道されたことで、TOBには失敗したものの、ドン・キホーテが一般に認知されることに大いに役立った。
その結果、「普通の人には入りにくいお店」のイメージを払拭(ふっしょく)するのに役立ち、現在に至る普通の人が普段使いする「ドン・キホーテという他にないディスカウントストア」というブランド育成につながっていったのだ。
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