“ピーク比75%減” 渋谷ハロウィンから考える「コロナと東京一極集中」:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)
数年前から慣例化している「渋谷ハロウィン」であるが、今年の渋谷ハロウィンはコロナ感染リスクが高く、区長直々の自粛呼びかけの効果もあり、例年と比較すれば相当低い人出となっていたという。コロナ禍で人の動きが抑制された渋谷ハロウィンから視点を広げて、国内に目を向けてみよう。コロナ禍で人々の動きは抑制されたのだろうか。
なぜ一極集中を避けたいのか
内閣府が掲げる東京一極集中のデメリットとしては、これまでは主に首都直下型地震という災害リスクが東京に集中していることにあった。今回のコロナ禍は政府の想定しなかった感染症という面の災害リスクについても認識させられることになっただろう。
ただし、一極集中にも一定のメリットが存在し、その恩恵を預かって日本経済が成長してきたこともまた事実だ。イギリスの経済学者アルフレッド・マーシャル氏は一極集中にみられる産業集積について、さまざまな外部経済効果をもたらすことを提唱した。
特定の産業が集積した立地には、人や情報が集まり、効率的な生産ができるようになる。移動手段やオンラインミーティング環境が整いつつある現代においても、この原則は変わらない。例えば、最も分散が得意なはずの米国のIT企業や従業員は、物価の高いシリコンバレーに留まり続けている。この事実は、シリコンバレーの地域の中だけで流通する情報や人材に、他の地域からアクセスすることが難しいことを示しているといえるだろう。
20世紀における日本の高度経済成長も、東京への一極集中とセットで実現してきたといっても過言ではない。実質GDP成長率が年率10%を超える場面もあった60年代のピーク時には、1年でおよそ65万人もの人々が地方から3大都市圏へなだれ込んだ。
1955年からの高度経済成長のピーク時には、東京圏への転入者数は40万人に迫り、GDPの成長率は10%を超えていた。74年に高度経済成長が終わりを告げ、実質GDP成長率がマイナス0.2%に落ち着いたときには、東京圏への転入は1.5万人程度まで落ち込んでいる。このように、かつては都市圏への転入超過と実質GDPの増加には、ある程度の相関性がみられていた。
しかし、2000年代以降は、東京県への転入超過に対して、実質GDP成長率が追いつかなくなりつつある。東京都の人口は2000年から20年にかけて200万人増加したものの、実質GDP成長率は横ばいだ。
IMFは日本の20年のGDP成長率はマイナス5.3%となると推計しているが、それでも東京都の人口は増えている。しかし、95年以降は人口の伸びのほとんどが65歳以上の老齢人口増に伴うものであり、GDPの成長により貢献する生産年齢人口は実質GDPと同じく横ばいだ。人口を増やせば経済が成長するというフェーズは、とうに過ぎている。
地方都市の“小さな産業集積”がカギ?
東京への一極集中は、日本の出生数・出生率にも影響を与えている。19年における全国の合計特殊出生率は、全国で1.36と12年ぶりの低水準となった。ワーストは東京都の1.15人で、他の東京圏に属する各県も全国で下位に属する。
初婚年齢も東京圏が突出して遅くなりがちであり、東京都は初婚が30.4歳、第1子が32.3歳と、全国平均で1年程度遅い。人と地域のつながりが強かった地元から転出する若者の未婚率、有配偶出生率が低くなっており、少子化を加速させる要因となっている。
それでも、東京圏の人口が増加する背景には、進出元の地域よりも東京の雇用や環境に希望を見出す者が後をたたないからであろう。東京一極集中を解消するアプローチには、東京が「東京から追い出す」という姿勢ではなく、むしろ地方都市が「東京から引っ張ってくる」という姿勢も求められてくるはずだ。
ベンチャー支援の手厚い福岡市には、ゲーム会社のレベルファイブや、開発者向けプロジェクト管理ツール「backlog」のヌーラボといった有力企業が軒を連ねており、その流れを受けてベンチャー創業も増加している。ベンチャーに特化した小さな産業集積、つまり日本版シリコンバレーといってもよい都市政策をとる地方自治体の動きも活発になっている。
今年には、パソナグループが本社機能を担う約1800人の従業員のうち、3分の2にあたる1200人を段階的に東京から淡路島へ移動させていく方針を公表した。同社は淡路島に本社を移すだけでなく、さまざまな観光施設や起業支援も行っており、淡路島の中で小さな産業集積を狙っているとみられる。
コロナ禍による東京圏への転入減は、今のところはただ転入需要を抑制しているだけで、一極集中が解決に向かったとみるのは時期尚早だろう。真の意味で一極集中を是正するためには、やはり安価な生活コストの地方都市において、特定分野について東京にひけをとらない産業環境の整備、つまり“小さな産業集積”が重要となってくるのではないだろうか。
筆者プロフィール:古田拓也 オコスモ代表/1級FP技能士
中央大学法学部卒業後、Finatextに入社し、グループ証券会社スマートプラスの設立やアプリケーションの企画開発を行った。現在はFinatextのサービスディレクターとして勤務し、法人向けのサービス企画を行う傍ら、オコスモの代表としてメディア記事の執筆・監修を手掛けている。
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