デジタルで「4P」はどう変わる プロモーションは「会話」が勝負? シャープやタニタのSNSが人気なワケ:「新時代」のマーケティング教室(4/4 ページ)
マーケティング理論として知られる「マーケティング・ミックス」(4P)。デジタル時代にどう変わっている? 東京都立大学経済経営学部の水越康介教授が解説する。
例えば、よく知られる「3B(Beauty、Beast、Baby)」はSNS上でも拡散されやすい。加えて情報量の高い内容、つまり話題性や意外性のある内容も拡散されやすいだろう。それからもちろん、写真や動画といったビジュアルに訴えるものと、先の会話が示すインタラクティブな内容も注目を集め、拡散されやすい。
ただし、後者の自然な拡散を期待するあまり、その内容が過剰になりすぎれば「フェイクニュース」にもなりかねない。また、本当は広告であるにもかかわらずそのことを隠したり、悪意はなくとも分かりにくくしたりしてしまうと「ステルスマーケティング(ステマ)」として批判の対象になる。いずれも炎上要因であり、SNS上のコミュニケーションの難しさにもつながっている。
企業アカウントによる会話が炎上リスクを伴うのは、「デジタルだから」というよりもコミュニケーション本来の難しさによるところが大きい。よく知った友人同士の会話ですら、時々思いがけず相手を怒らせてしまったり、困らせてしまったりすることがある。これに対して、インフルエンサーの力を借りたコミュニケーション活動が炎上リスクを伴うのは、それ以前の企業側の倫理観の問題によるところが大きい。少なくとも後者は、企業が自らを律する必要があるといえる。
会話による「格付け」の形成も
企業アカウントはもちろん、人々の会話はSNS上に蓄積されていく。これらはそのままばらばらに保存されているが、サイトの仕組み次第で見やすく可視化されたり、あるいは格付けされたランキングになったりすることもある。
例えばトリップアドバイザーを見れば、ホテルに関する情報が見やすく整理されて並べられており、顧客の声はもちろん、ホテル側の対応も見ることができる。当の顧客とホテルの間での会話は、次の顧客を呼び込む大事な情報源となるだろう。他にも価格.comであれば、利用者の声が並ぶとともに点数による評価も加えられ、商品の人気の程度もすぐに分かる。
こうした格付け情報は人々にさまざまな影響を与えるが、集合的に他人の意見や動向を知ることができるという点では、「バンドワゴン効果」と「スノッブ効果」の両方を考えることができる。バンドワゴン効果とは、勝ち馬に乗ることを意味し、みんなが買っている商品を自分も買おうと考える心理である。顧客の声が集まり、かつ高評価となれば、自分もそれを買ってみようと思うだろう。一方で、スノッブ効果は逆であり、みんなが買っている商品は買いたくないと思う心理である。
バンドワゴン効果とスノッブ効果は、人によってどちらか一方だけが生じるというものではない。むしろ、どんな人にも両方の気持ちがあり、SNSや情報サイトを見た場合にも両方の効果が働く。例えば、ハワイが人気であれば自分も行きたいと思うが、どうせいくならば、ハワイの中でもまだ他の人が行っていない場所に行きたいと思うこともある。商品でも、みんながiPhoneを持っていれば自分もiPhoneを買いたいと思うが、どうせ買うならば、人とはちょっと違う色であったり、あるいはちょっと違うデコレーションをしたりもしてみたいと思う。逆に企業から見れば、こうした人々の気持ちにうまく答える情報提供が重要になってくるだろう。
著者プロフィール・水越康介(みずこしこうすけ)
東京都立大学 経済経営学部 教授
2000年に神戸大学経営学部卒業、2005年に同経営学研究科博士後期課程修了、博士(商学)。2005年から首都大学東京(現東京都立大学)、2019年から経済経営学部教授。専門はマーケティング、デジタル・マーケティング。主な著書として、『ソーシャルメディア・マーケティング』(単著、日経文庫、2018年)、『マーケティングをつかむ 新版』(共著、有斐閣、2018年)、『「本質直観」のすすめ。』(単著、東洋経済新報社、2014年)、『新しい公共・非営利のマーケティング』(共編著、碩学舎、2013年)、『ネット・リテラシー』(共著、白桃書房、2013年)など。
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