生き残りをかけたANA「400人出向」 左遷でなく“将来有望”のチャンス?:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(5/5 ページ)
ANAホールディングスが社員を他社に出向させるとして注目されている。出向というとネガティブなイメージだが、企業にとっても社員にとっても「成長」への布石となる側面もある。人は環境で変わるからだ。新しい雇用の形として、他の企業も前向きに取り組んでほしい。
他社出向をポジティブな生き残り策に
すでにANAホールディングスの社員出向の受け入れ先として、KDDI、ノジマ、パソナ、成城石井、三重県、佐賀県、沖縄県浦添市などが報じられていますが、出向することになったANAの社員たちが強い自己をもって挑めば、「このままうちの会社にいてほしい」と惜しまれる人材になることでしょう。
ANAに帰った後は、「武者修行」を終えて一皮も二皮もむけた戦力として重宝がられるはず。ひょっとすると、「もっと成長したい」と転職を目指すことになるかもしれません。
いずれにせよ、今回のANAの取り組みは「帰れる場所がある」=「職務保証」という心理的契約に基づく出向なので、「現在窮乏将来有望」の精神で頑張ってほしいし、他社も同様の取り組みをすれば、新しいカタチの「雇用の流動化」も期待できます。
現在窮乏将来有望――。これは、ANAの初代社長の美土路昌一氏の言葉です。ANAの2レターコードが「NH」なのは(日本航空はJL)、ANAの前身である日本ヘリコプター輸送(日ペリ)に由来しています。同社は、美土路氏が国内初の民間航空会社として設立しました。
日本のナショナルフラッグキャリアはJALでしたから、ANAには厳しい時代があった。それでも「現在窮乏将来有望」を信じて険しい道のりを乗り越えてきたと、私は新人の頃、先輩CAから何度も聞かされました。
コロナ禍では多くの企業が厳しい状況におかれています。ANAだけでなく、他の企業でも「アフターコロナ」で成長するために、他社出向をポジティブな生き残り策として受け止め、取り組んでほしいです。
【訂正:2020年11月14日 一部の用語を訂正しました。】
河合薫氏のプロフィール:
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)
お知らせ
新刊『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)が発売になりました!
失業、貧困、孤立――。新型コロナウイルスによって社会に出てきた問題は、日本社会にあった“ひずみ”が噴出したにすぎません。
この国の社会のベースは1970年代のまま。40年間で「家族のカタチ」「雇用のカタチ」「人口構成のカタチ」は大きく変化しているのに、それを無視した「昭和おじさん社会」が続いていることが、ひずみを生み続けています。
コロナ禍を経て、昭和モデルで動いてきた社会はどうなってしまうのか――。
「日経ビジネス電子版」の長期連載を大幅に加筆し、新書化しました。
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