生き残りをかけたANA「400人出向」 左遷でなく“将来有望”のチャンス?:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(4/5 ページ)
ANAホールディングスが社員を他社に出向させるとして注目されている。出向というとネガティブなイメージだが、企業にとっても社員にとっても「成長」への布石となる側面もある。人は環境で変わるからだ。新しい雇用の形として、他の企業も前向きに取り組んでほしい。
人はなぜ「成長」できるのか
少々ややこしい話ですが、以下の「私」の概念図に示した通り、「私」は「私」だけじゃない他者からの外的な影響を受けながらつくられます。家庭環境、職場環境などに存在する有形無形の環境要因が複雑に絡み合いながら「私」はつくられているのです。
どんなに「俺は一匹狼だぜ」と豪語している人でも、他者との関係性の質が「私」に 強く影響する。そして、「強い自己」を持つ人は、自己と外的な影響の相互作用で「私」がつくられ、年齢に関係なく成長し、進化することが可能です。
強い自己を持つ人は、自分を取り囲む環境と共存はしますが、環境に依存はしません。強い自己を持つ人は自分が置かれた環境で、自分の社会的役割を全うするために自己を磨き続ける一方で、周りにも影響を及ぼしつつ、「自分の居場所」を確立します。つまり、「環境で変わる」だけでなく、「環境を変える」ことができるたくましさを持っているのです。
「強い自己」とは、「自分がある」とか「自分がない」という表現で使われる「自分」とほぼ同義で、強い自己には「意志力(Grit)」が必要です。意志力にはさまざまな解釈がありますが、私が指す「意志力」は「自分がどうありたいか?」といった仕事上の、いや、人生上の価値観です。
強い意志力があれば、必ずや強い自己をつくることができます。そして、強い自己を持つ人は、年齢や属性で人を差別したり区別したりしません。どんな人からでもどんなことからでも、「学んでやるぜ!」という貪欲さと謙虚さを持ち合わせています。自己と他者を分かつのではなく、ときに自分の弱さを認め、ときに他者の力を借り、常に自分に足りないものを補強し成熟します。
そのプロセスを繰り返す中で、「求められる役割をしっかりと演じさえすれば居場所と存在意義を見つけられる」という穏やかな自信が高まり、どんなに厳しい状況になろうとも乗り越えられるようになっていくのです。
一方、「自己が弱い」人は外的な影響をもろに受け、環境に依存します。そういった人は大抵、「なんで私がこんなとこにいなきゃいけないのよ」と周りをさげすみ、属性で人を区別します。弱い自己の人は、周りに“虎”がいれば虎への依存度を高め、自分が運よく権力を手に入れれば、権力を盾に周りを見下します。「力」に執着することで不安から逃れる人になり下がります。
つまり、権力は強さではなく弱さに宿り、そこには「成長」もなければ「進化」もないのです。
関連記事
- ワタミは違法残業、勤務記録改ざんも…… 問題企業のトップが見ていない、過重労働の現実
ワタミが宅食事業のグループ会社で残業代未払いがあったとして是正勧告を受けた。勤務記録の改ざんもあったという。同社は労働環境の改善に努めていたはず。組織のトップと従業員たちに断絶があったのではないか。残業は単なるカネの問題ではなく、命の問題だ。 - ボーナスは“特権”か 「低賃金で何が悪い?」正当化され続ける非正規格差
非正規社員の賞与や退職金を巡る判決があったが、すぐに議論は鎮火した。女性を低賃金で雇うことが当たり前になった時代から変わっていない。非正規労働者は増加し、貧困問題に発展しているのに「自己責任」で片付けてきた。雇用問題の在り方から議論が必要だ。 - 賃金は減り、リストラが加速…… ミドル社員を脅かす「同一労働同一賃金」の新時代
2020年は「同一労働同一賃金」制度が始まる。一方、厚労省が示した「均衡待遇」という言葉からは、正社員の賃金が下がったり、中高年のリストラが加速したりする可能性も見える。そんな時代の変わり目には、私たち自身も働き方と向き合い続ける必要がある。 - 単なる“ワーク”と化す? 「ワーケーション」普及が幻想でしかない理由
旅先で仕事をするワーケーションについて、政府が普及に取り組む考えを示した。しかし、休暇中でも休まらないという問題があるほか、対応できるのはごく一部の企業。テレワークさえできていない企業も多い。IT環境整備をするなら、日常の生活圏を優先させるべきだ。 - 「もう、諦めるしかない」 中高年化する就職氷河期世代を追い込む“負の連鎖”
40歳前後になった「就職氷河期」世代に対する支援に、国を挙げて取り組むことを安倍首相が表明した。しかし、就職時の不況や非正規雇用の拡大など、さまざまな社会的要因によって追い詰められた人たちの問題は根が深い。実効性のある支援ができるのか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.