生き残りをかけたANA「400人出向」 左遷でなく“将来有望”のチャンス?:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(3/5 ページ)
ANAホールディングスが社員を他社に出向させるとして注目されている。出向というとネガティブなイメージだが、企業にとっても社員にとっても「成長」への布石となる側面もある。人は環境で変わるからだ。新しい雇用の形として、他の企業も前向きに取り組んでほしい。
他社出向は「人材育成」に活用されてきた
個人的な話になりますが、私はANA国際線就航2年目に国際線のCAになりました。当時はANAが「JALに追い付け! 追い越せ!」と社員が一丸となって頑張っていた時代で、路線も限られていました。ですから「大型機を中心に30機を売却」するということに、かなりショックを受けました。
なにせ、私がANAに入社した頃は、片手で数えられるほどの飛行機しかなかった。たったの4機です。入社してまもない頃に「マジ! たったの4機しかないの?」と衝撃を受けたことは、“記憶の箱”に深く深く刻まれています。
そういった意味でも、今回のANAの削減策は衝撃的ではありますが、冒頭で書いた通り、メディアがこぞって取り上げた「他社出向」は、企業にも社員にも大きなメリットがあると私は受け止めています。
メディアではあたかも他社出向を左遷のように報じていますが、これまでにも第一生命やトヨタ自動車などで「人材育成」を目的とした他社出向が行われています。
例えば、トヨタでは生産現場で係長級の「工長」に昇格する候補者を、異業種を含めた関連会社や自動車販売店などに武者修行として出向させています。これまでの経験が通用しない外部環境に身を置くことで、リーダーとしての資質を磨くことが目的です。また、事務部門の若手幹部候補をベンチャー企業に出向させる取り組みも制度化しています。
では、なぜ「他社出向」が個人を成長させるのか?
それは「人は環境で変わる」からです。
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