「2代目」が陥るワナ――大戸屋の、“愛言葉”を忘れた値下げ路線が失敗しそうなワケ:大塚家具の二の舞か(3/4 ページ)
経営権を巡ってドタバタ劇を繰り広げる大戸屋。“愛言葉”を忘れた新体制による、祖業を見切った値下げ路線は成功するのか。大塚家具とともに、大戸屋でも起こっている創業家2代目が陥るワナとは?
彼が言う「100円の値下げ」と「提供時間の短縮」は、とりもなおさず店内調理からセントラルキッチンへの移行を前提としています。店内調理を手放すことによる100円の値下げ戦略が、果たして売上を戻すことにつながるのでしょうか。果たして多くの大戸屋利用者が望んでいることなのでしょうか。
私はむしろ、飲食店にとって重要なリピート客である大戸屋ファンの“大戸屋離れ”を助長することになるのではないか、という懸念の方が大きいと感じています。付け加えれば、智仁氏が胸を張るコロワイドによる大戸屋黒字化の道筋は、旧経営陣が守ってきた大戸屋の「現場の真実」を踏まえない机上論にすぎないと思うのです。
創業家2代目による祖業軽視&机上論展開といえば、真っ先に大塚家具が思い浮かびます。同社は、社長の座について5年を経た2代目・大塚久美子氏がその座を追われ、創業者である父が一部上場にまで育てた家業が創業家の手を完全に離れるという憂き目と相成りました。大戸屋2代目である智仁氏の姿は、この大塚家具2代目・大塚久美子社長の振る舞いとあまりにダブるのです。
あまりにダブって見える、大塚家具の惨状
大塚家具は、会員制の高級家具販売という独自のビジネスモデルで成長を続けてきましたが、ニトリやイケアなどのいわゆる薄利多売という業界の新たな流れに押される形でジリ貧状態になり、久美子社長が父のビジネスモデルを完全否定します。久美子社長は株主総会でのプロキシーファイト(委任状争奪戦)を経て会社から父を追い出し、ニトリ・イケアの後追い的戦略に舵を切るも、全くの不発で4期連続の大赤字を計上。救済の手を差し伸べたヤマダホールディングスの傘下に入るも、赤字から脱することができずに家業を完全に手放すに至ったのです。
祖業である会員制家具販売で築き上げたお得意様囲い込み戦略を捨てた大塚家具と、同じく祖業である店内調理方式で作り上げてきたファンを捨てようとしている大戸屋。ニトリ、イケアの後追いでレッドオーシャンに飛び込んでいった大塚家具と、コスト削減を優先して味重視から価格重視へと軸足を移し、特徴のない外食店としてレッドオーシャンに漕ぎ出そうとしている大戸屋――。
ともに創業者が苦労を重ねて築き上げたオリジナリティーあふれるビジネスモデルを捨てて、あえて勝算に乏しい競争の激しい世界に飛び込もうとしているようにしか見えません。なぜ、強みとして発展を支えてきた特徴を捨てるのか。強みを生かしつつ新たな復活戦略を作り上げていくのが、マネジメントのセオリーではないのかと思うのです。
関連記事
- セコい値下げで喜んでいる場合ではない、NTTのドコモ完全子会社化ウラ事情
NTTがドコモを完全子会社すると発表。5Gや6Gのイニシアチブ奪還に向けて歓迎する声も多いが…… - 本当に大丈夫? 菅首相の「地銀再編」発言が、再び“失われた10年”を呼びそうな理由
菅首相がしきりに口にする「地銀再編」。確かに苦境に置かれる地銀だが、再編はうまくいくのだろうか。筆者は過去の長銀破綻を例に出し、また「失われた10年」来てもおかしくないと指摘する。 - 半沢直樹を笑えない? 現実に起こり得る、メガバンク「倍返し」危機とは
7年ぶり放映でも好調の「半沢直樹」。「倍返し」に決めぜりふに銀行の横暴を描く姿が人気だが、どうもフィクションだけの話では済まない可能性が出てきた。現実のメガバンクに迫りくる「倍返し」危機とは? - 7年ぶりに新作の半沢直樹 1月放送の「エピソードゼロ」からメガバンクの生存戦略を読み解く
7年ぶりに続編が放映されるドラマ「半沢直樹」。当時から今までで、銀行界はどう変わった? メガバンクの生存戦略と作品を合わせて読み解く。 - 「カメラ事業売却」の衝撃 業務提携中のオリンパスとソニー、祖業を巡る両社の分岐点とは?
カメラ映像事業の売却を発表したオリンパス。好対照なのが、業務提携関係にあるソニーだ。コロナ対応を巡る両社の分岐点とは? - 長期化するコロナショック レナウンの次に危ない有名企業とは?
新型コロナの影響はとどまらず、航空業界、観光業界を中心に甚大な影響を与え続けている。日本企業では、レナウンの破綻が話題となったが、経営に詳しい筆者の大関暁夫氏は、次に危ない企業として、2つの有名企業を挙げる。共通するのは、両社とも“時限爆弾”を抱える点だ - 都銀再編時に「ごみ箱」構想を持っていた金融庁と地銀救済で手を組むSBIホールディングスは天使か、悪魔か?
SBIホールディングスが仕掛ける「地銀救済」。陰には金融庁の影響も見え隠れするが、「証券界の暴れん坊」と目されるSBIと金融庁、それぞれの思惑とは? 過去、銀行勤務時代に大蔵省との折衝を担当していた筆者によると、90年代の都銀再編時に官僚は「ごみ箱」構想を持っていたという。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.