「2代目」が陥るワナ――大戸屋の、“愛言葉”を忘れた値下げ路線が失敗しそうなワケ:大塚家具の二の舞か(4/4 ページ)
経営権を巡ってドタバタ劇を繰り広げる大戸屋。“愛言葉”を忘れた新体制による、祖業を見切った値下げ路線は成功するのか。大塚家具とともに、大戸屋でも起こっている創業家2代目が陥るワナとは?
加えて言えば、祖業を軽んじる戦略には、組織内における求心力の低下も心配されるところです。現実に、大塚久美子社長の退任を伝える複数の報道では、社内における久美子氏への求心力の欠落が、数々の打ち手を軌道に乗せられなかった原因だと指摘されています。創業者の手で成功した祖業を軽んじることで、信じてついてきた社員たちの心が離れて行ってしまうのは当然のことといえるでしょう。
話を大戸屋に戻すと、この点において気になるのは、コロワイドの企業文化が大戸屋のそれとはあまりにも懸け離れすぎていることです。
コロワイドと大戸屋は「水と油」
コロワイドの祖業は、創業者の蔵人金男氏が始めた居酒屋「甘太郎」です。甘太郎は、早くからセントラルキッチン方式を取り入れ、徹底した低価格居酒屋として成功を収めてきました。その後に傘下へ入れた他業態も、回転寿司チェーンの「かっぱ寿司」、大衆焼肉の「牛角」など、どれもコンセプト的には味より価格重視の企業文化に合った路線のチェーンでした。「かあさんの手作り料理をお値打ち価格で、お客様に」を“愛言葉”に掲げ、店内調理で味重視の大戸屋とは水と油の存在だと言えます。TOB発表後に「コロワイドの傘下に入るなら辞める」と社員有志が反対表明するなどの動きが出るのも当然と言えば当然です。大塚家具以上に求心力の低下が懸念されるところです。
さて、大戸屋のセントラルキッチン化・低価格化に、果たして活路は見いだせるのでしょうか。コロナ禍により外食産業のテークアウト比率が増えていく中で、消費者は「家で食べるのなら価格よりも味重視」の傾向が強まるのではないかとも考えられます。セントラルキッチン化による没個性な味の低下はむしろ命取りになる可能性も高いのではないでしょうか。むしろ、大戸屋が今できることは、祖業を顧みることです。例えば、店内調理で味のレベルを保ちつつメニューのバリエーションを増やしローテーション化するなど、ファンを飽きさせずにリピートさせつつ、新たな顧客を増やす工夫ではないのでしょうか。
企業の成長を支えてきた祖業には、必ず多くのファンが付いています。また祖業による成長の過程には、表向きは見えない経験に裏打ちされたノウハウや強みとなる企業文化がひもづいており、次なる工夫のヒントが必ずあるはずです。にもかかわらずそれを無にしてしまう経営は、2代目が陥りやすい愚かな過ちでもあります。創業者を追い出し、祖業を捨てた大塚家具の2代目の経営者としての末路を見るに、同じ轍を踏むなと三森智仁氏には声を大にして申し上げたいと思います。
著者プロフィール・大関暁夫(おおぜきあけお)
株式会社スタジオ02 代表取締役
横浜銀行に入り現場および現場指導の他、新聞記者経験もある異色の銀行マンとして活躍。全銀協出向時は旧大蔵省、自民党担当として小泉純一郎の郵政民営化策を支援した。その後営業、マーケティング畑ではアイデアマンとしてならし、金融危機の預金流出時に勝率連動利率の「ベイスターズ定期」を発案し、経営危機を救ったことも。06年支店長職をひと区切りとして銀行を円満退社。銀行時代実践した「稼ぐ営業チームづくり」を軸に、金融機関、上場企業、中小企業の現場指導をする傍ら、企業アナリストとしてメディアにも数多く登場。AllAbout「組織マネジメントガイド」役をはじめ、多くのメディアで執筆者やコメンテーターとして活躍中。
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