女性の自殺“8割増”の厳しい現実 放置されてきた、2つの「低賃金問題」:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(2/4 ページ)
10月の自殺者数は2000人を超え、特に女性は前年同月比で8割以上増加。女性の貧困問題としてシングルマザーが注目されるが、問題はそれだけではない。「非正規の低賃金」「女性の低賃金」の2つは社会全体の問題だ。「明日は我が身」かもしれないのだ。
「一家の大黒柱=夫」とはいえなくなった
コロナ感染拡大が深刻化した4月頃から、パートなどの非正規で雇用されているシングルマザーたちが仕事を失い、「子供がおなかをすかせていても食べさせるものがない」「公園の水や野草で空腹を満たしている」といったショッキングな内容の相談が、NPO法人しんぐるまざあーず・ふぉーらむに寄せられていると一部メディアで報じられていました。
ご承知の通り、日本の相対的貧困率は15%以上で、日米欧主要7カ国(G7)のうち、米国に次いで2番目に高い数字です。ひとり親世帯に限ると、OECD(経済協力開発機構)加盟35カ国中、ワースト1位。特に母子家庭の貧困率は最悪で、米国36%、フランス12%、英国7%に対して 日本は58%。シングルマザーの就業率は先進国で最も高い84.5%なのに、 3人に2人が貧困というパラドクスが存在します。
しかし、こういったシングルマザーの貧困問題は深刻ですが、家計を支えているのはシングルマザーだけではありません。夫がいても、妻が家計を支えているケースは少なくありません。
例えば、2004年の夫婦共働き世帯の総収入のうち、配偶者(妻)の収入が占める割合は、総務省の「調査」では22.7%です。また、配偶者の就労収入がない世帯の割合は46.3%(1997年)から28.1%(2017年)にまで縮小する一方、配偶者の年収が130万円以上の世帯の割合は12.4%(1997年)から32.7%(2017年)に増えるなど、「一家の大黒柱=夫」とはいえないのです。
その半面、ケア労働の主たる担い手が女性であるという家族観は根深く、育児も介護も女性の仕事、学校のPTAも女性の仕事という状況は大きく変わっていません。
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