上から目線? 経団連が発表した「教育界への提言」が、経済界へのブーメランなワケ:隗より始めよ(4/4 ページ)
経団連が発表した教育界への提言は“喝”ともいえる内容で、至極まっとうなことをまとめている。その一方で、何となく違和感を覚える理由はどこにあるのか。
同資料には、18年調査における「選考にあたって特に重視した点」のグラフも公開されており、82.4%と、実に8割以上の企業が「コミュニケーション能力」を重視していることが分かります。
次点は「主体性」で64.3%。「主体性」は、今回の提言でもSTEAM教育などによって育むべき要素として取り上げられていました。しかしながら、「課題解決能力」が19.8%、「リーダーシップ」17.1%、「専門性」12.0%、「創造性」11.1%など、今回の提言にあるような育成ポイントと関連する項目は軒並み低い数値です。グローバルな視野やダイバーシティ&インクルージョンに至っては、そもそも該当する項目自体が見当たりません。
これが、提言に覚えた違和感の正体ではないでしょうか。
提言は「ブーメラン」、経団連も変わるべき
経団連が提言を通して教育界に求めた改革とは、そのままブーメランのように返ってくる、経済界自身にも求められる改革でもあるといえるのではないでしょうか。もし教育界が今回の提言を全面的に受け入れて改革し、Society 5.0で活躍できる人材の育成が実現されたとき、果たして経済界はきちんとその能力を評価して受け入れられるのでしょうか。
早くからキャリア教育を受けて職業観を身に着け、STEAM教育で学際的に創造性などさまざまな能力を磨き、高い情報リテラシーを備え、ダイバーシティ&インクルージョンの観点に立って、グローバルにリーダーシップを発揮できる人材――仮にそんな「理想的人材5.0」が育成できたとしても、「2018年度 新卒採用に関するアンケート調査結果」を見る限りは宝の持ち腐れになってしまわないか心配です。
つまるところ、教育界に向けられた提言は、教育界だけに限られた課題ではなく、日本社会全体にとっての課題なのではないかと思います。そして、その課題解決のためには教育界と同様に、日本中の企業からなる経済界の改革もまた、不可欠であるはずです。
関連記事
- 日本中に“隠れ無惨”上司がいる! 鬼舞辻無惨のパワハラを笑えないワケ
人気漫画『鬼滅の刃』で、鬼たちの「パワハラ会議」が話題となった。ネタとして消費されているが、日本企業も笑っていられないのではないだろうか。 - 「週休3日」「副業容認」は各社各様 “柔軟な働き方”を手放しで喜べないワケ
新型コロナを受けて大手企業でも「週休3日制」や「副業容認」が進む。これまでもいくつかの企業はこうした働き方を柔軟にする制度を導入してきたが、個々の会社によって運用方式は違う。それぞれの違いを見逃さないために抑えておくべき、「3つの変化」とは。 - オリエンタルランド「ダンサー配置転換」の衝撃――非正規社員を“犠牲者”にしないために、いま求められるものとは?
一部報道によると、オリエンタルランドがダンサーなどの配置転換を行う。不景気時には真っ先に「調整弁」となる非正規雇用だが、“犠牲者”にしないために必要なものとは? - 社員に「何か手伝うことはないですか?」と言わせる会社が時代に合わなくなっていくと思える、これだけの理由
若手社員にありがちな、定時後の「何かやることありますか?」という伺い立て。日本企業は個々の役割分担があいまいだからこそ、こうした「職場第一主義」的ななりふりが求められてきた。しかし、時代の変化によって、こうした職場第一主義から抜け出す必要が生じてきている。 - 増えるストレス、見えた希望――コロナショックを機に、働き手の“反乱”が始まる?
新型コロナウイルスの感染拡大を機に、働き手の意識が変わった。テレワークも浸透し、仕事よりも生活を重視する層が増えている。一方、企業の腰は重く、働き手との「意識の差」がどんどん開くかもしれない。このままいけば、抑圧されていた働き手の反乱が始まる可能性がある。 - テレワークで剥がれた“化けの皮” 日本企業は過大な「ツケ」を払うときが来た
テレワークで表面化した、マネジメント、紙とハンコ、コミュニケーションなどに関するさまざまな課題。しかしそれは、果たしてテレワークだけが悪いのか? 筆者は日本企業がなおざりにしてきた「ツケ」が顕在化しただけだと喝破する。 - なぜ、失業者ではなく休業者が新型コロナで激増したのか 2つの理由
新型コロナで休業者が激増している。リーマンショック時と比較すると、その差は顕著だ。なぜ、失業者でなく休業者が激増したのか? 背景に2つの理由があると著者は解説する。 - 「ブランク」や「ドロップアウト」は無意味ではない いま見直すべき、「採用の常識」とは?
就職や転職の際に、多くの企業が重視するのが、その人材が社会や企業の求める能力や規範に合致しているかどうかという点だ。そのため、規範から外れていたり、「ブランク」や「ドロップアウト」の経験があったりする人が生きづらさを感じることも少なくない。ビースタイルホールディングスの調査機関「しゅふJOB総研」の所長を務め、「人材サービスの公益的発展を考える会」を主催する川上敬太郎氏は、こうした社会を「能力適合型社会」とし、一人一人の能力の方へ着目する「能力発見型社会」への移行を提唱する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.