宙に浮いた「TikTok」の運命は? まとまらない買収交渉の顛末:世界を読み解くニュース・サロン(5/5 ページ)
人気アプリ「TikTok」の米事業売却が合意に至らず、中途半端な状態だ。安全保障リスクを理由に、トランプ政権が使用禁止や米企業による買収に向けて動いていた。このままだと新政権が判断することになる。日本でも禁止にはならないだろうが、リスクの可能性は知っておくべきだ。
日本でTikTokが禁止になることはある?
TikTokの影響力は特に若者の間で半端ない状態になっている。コロナ禍で娯楽が減ったことで、その人気はさらに高まっている。世界的に最も人気の高いユーザーの一人、19歳のフィリピン系アメリカ人であるBella Poarchは、4540万フォロワーを誇り、5億3000万回以上視聴されている。
米政府は中国のIT大手テンセントのメッセージングアプリである微信(WeChat)も、情報が中国政府に渡るという懸念から、安全保障への脅威であるとして大統領令で禁止措置にした。だが米国内でも数百万人が使うアプリを禁止にするのは不当であるとして裁判に発展している。これについても、21年1月に審理が行われる予定で、今後の動向が注目されている。
では日本で今後、TikTokが使用禁止になることはあるのか。筆者は各方面への取材から、TikTokが日本で禁止になることは当面ないと見ている。実は、そもそも日本政府は、特定の民間企業を名指しして排除すると公には認めていない。ただ現場レベルでは米軍がやっているように、事実上、禁止にしているところはあるだろう。とにかく、トランプ政権のように、国をあげてTikTokを禁止にすると大々的に動くことはないと考えられる。
それでも、安全保障のリスクがないわけではない。少なくとも、それだけは肝に銘じておく必要があるだろう。
筆者プロフィール:
山田敏弘
元MITフェロー、ジャーナリスト、ノンフィクション作家。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト・フェローを経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)がある。テレビ・ラジオにも出演し、講演や大学での講義なども行っている。
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