法整備、オフィスの在り方、DX……「総務」の視点で振り返る2020年:「総務」から会社を変える(1/3 ページ)
『月刊総務』編集長の豊田健一氏による、総務とDXを巡る連載。2020年最終回となる今回は、総務の視点から今年1年のニュースや変化を振り返る。
激動の2020年が終わろうとしている。新型コロナウイルスの感染拡大が収束の兆しをなかなか見せない中、21年も引き続き、何が起こっても不思議ではない「VUCA」時代が続いていくような気がする。ともあれ、まずはこの1年を「総務」の視点で振り返ってみよう。20年は、総務にとってどのような1年だったのだろうか。
働き方改革を進める法令改正の年
まずは、総務に関係する法改正など、「ハード面」について振り返ってみよう。
大きなものとしては、4月に「同一労働同一賃金」(いわゆる大企業のみ、中小企業は21年4月1日から対象)が開始となった。正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の、不合理な待遇差を解消することを目指す制度である。待遇差を巡っては最高裁の判決などもあり、一定の方向性が見えてきている。中小企業も年明けの四月から施行となるので、アルバイトや契約社員が正社員と混在して働くような職場においては、各種手当制度の再設計などに関して早めの検討が必要となる。
同じ4月には「時間外労働の上限規制」の適用が、中小企業向けに実施された。こちらも同一労働同一賃金同様、先んじて大企業には20年4月に適用されていたものだ。総労働時間の上限が新しく定められることとなり、これを上回る労働時間の定めや、実際の労働が行われた場合は労働基準法違反となる。従来は、特別条項が適用されると青天井だった労働時間に法的な縛りが定められたことで、働き方改革の実効性を高める画期的な法令である。
6月に、大企業に対して施行された改正労働施策総合推進法、いわゆるパワハラ防止法も紹介する必要があるだろう(こちらも大企業のみ先行して対象。中小企業は22年4月からの施行)。パワハラ防止法により、企業(事業主)は職場におけるパワハラ防止のために、雇用管理上必要な措置を講じることが義務となる。そして、適切な措置を講じていない場合には是正指導の対象となる。さらに、パワハラが常態化して改善が見られない企業に対しては、企業名を公表する措置もあるため、総務や人事が主導して、職場環境の整備を行う必要があるといえる。
また、開催予定だった東京五輪に合わせて、グローバル標準に合わせる観点から健康増進法の一部改正があった。これにより原則「室内禁煙」となり、喫煙のためには施設内の喫煙室設置などが求められることとなった。さらに、東京都では受動喫煙防止条例もあり、多くの企業で「たばこ部屋」が閉鎖されたことだろう。
民法も、120年越しの大改正が行われた。特に債権に関するものが大きく改正となった。主なものは、保証人の保護に関する改正、約款(定型約款)を用いた取引に関する改正、法定利率や消滅時効に関する改正である。契約書の作成やチェックを行う総務としては、特に関係が深い法令改正である。民法ではないが、契約に関しては「脱ハンコ」の流れもあり、電子署名に関して政府見解の発表もあるなど、さまざまな変化が起きた1年だった。
関連記事
- 総務よ、安易に「オフライン回帰」を許すべからず 今、総務に求められる態度とは?
『月刊総務』編集長の豊田健一氏による、総務とDXを巡る連載。「オフライン」へと回帰する企業も多い中、もっとオンラインを使いこなす姿勢こそが総務に求められると豊田氏は指摘する。 - BCP、本当に十分? 調査で読み解く、コロナ禍で浮かんだ課題と今後
『月刊総務』編集長の豊田健一氏による、総務とDXを巡る連載。コロナ禍で注目度が高まるBCPだが、調査で見えた現状と課題とは? - 生産性を高める「健康」と「幸福」 総務が防ぐべき“宝の持ち腐れ”とは?
『月刊総務』編集長の豊田健一氏による、総務とDXを巡る連載。コロナ禍の中、いかに従業員の「健康」を維持・増進し、「幸福」へとつなげられるかが総務主導で生産性を高めるカギだと豊田氏は指摘する。 - 今こそ「腕の見せ所」 第2波が到来したコロナから、総務は会社をどう守る?
『月刊総務』編集長の豊田健一氏による、総務とDXを巡る連載。第2波が到来した新型コロナから、総務はどう会社を守るべきか。出社させるのか、在宅にするのか。出張や通勤など、移動の制限を設けるのか、プライベートでの感染症対策をする場合には、どこまで踏み込むべきなのか。勘所を豊田氏が解説する。 - どうする?フリーアドレス 成功のための「5箇条」と、抵抗勢力の乗り越え方
コロナを機に普及した在宅勤務だが、緊急事態宣言が解除されてからオフィス出社へと戻す企業も相次ぐ。しかし、今後は在宅勤務だけではなくテレワークを実施していくことが、企業にとって生き残りの術であることは明らかだ。そこで、今回はテレワークの実施に必要不可欠ともいえる「フリーアドレス」のポイントを解説する。 - 総務のテレワークを巡る「衝撃の数字」 フルリモート実現の急所とは?
『月刊総務』編集長の豊田健一氏による、総務とDXを巡る連載。総務のテレワークに関する調査で明らかになった衝撃の数字を基に、総務のフルリモートを実現するための急所はどこにあるのかを解説する。 - もうオフィスは不要なのか、それともまだまだ必要なのか 総務から考えた「結論」
『月刊総務』編集長の豊田健一氏による、総務とDXを巡る連載。いま、急激なテレワーク導入により、一部で「オフィス不要論」が出始めている。中にはコストなどの面から、オフィスを廃止しフルリモートに移行する企業も出てきた。総務業務との結び付きが強いオフィスを巡るテーマを、豊田氏はどう考えているのか? - テレワークで剥がれた“化けの皮” 日本企業は過大な「ツケ」を払うときが来た
テレワークで表面化した、マネジメント、紙とハンコ、コミュニケーションなどに関するさまざまな課題。しかしそれは、果たしてテレワークだけが悪いのか? 筆者は日本企業がなおざりにしてきた「ツケ」が顕在化しただけだと喝破する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.