ウォルマートの「西友切り」は遅すぎた? それなのに今、楽天が西友とタッグを組むワケ:小売・流通アナリストの視点(3/4 ページ)
ウォルマートが保有する西友株式の85%を手放す。売却する株式のうち20%は、新会社を通じて楽天が取得するという。長らく伸び悩む西友だが、あえて今、楽天がタッグを組む理由とは?
ウォルマートの撤退が遅かったワケ
ここまでを見れば、他のグローバルリテーラーが相次ぎ撤退する中、なぜウォルマートはすぐに日本市場から撤退しなかったのか、という疑問が出てくる。
それは、放任していてもある程度の売り上げを維持できたことが原因ではないかと考えている。
西友の売り上げは首都圏中心部の駅前店舗が支えていると思われるが、このエリアでは新しい店舗ができる空地もあまりないため、駅前の一等地を押さえたスーパーは新たな競争相手が来ることもなく、長きにわたって売り上げを維持できた。価格競争もかなり軽減されるため、店舗の収益も維持できる。そのため、駅前のスーパーは昭和から続く歴史ある店が温存されてきたのだ。駅前に多くある西友も同じ理由で、売り上げ・収益をある程度維持できたのであろう。
しかし、それは消費者が積極的に支持しているからではなく、近くに他の選択肢がないから仕方なく利用しているにすぎない。だからこそ、大都市圏立地に守られたスーパーは、競争の激しい郊外や地方に進出しても返り討ちになるわけで、店舗網を拡大して成長することができないというジレンマに陥っていた。
首都圏というのは今でも世界最大の大都市圏であり、世界でも有数の稠密(ちょうみつ)な鉄道網でネットワークされている特殊な地域なのだが、買収当初のウォルマートにはそうした立地についての認識はなかった。こうした背景が分かっていたなら、ウォルマートは西友を買わなかったに違いない。これから西友は防衛しやすい首都圏に店舗を絞り込んで、楽天ネットスーパーとの連携で活路を開いていくことになるだろう。世界一の大都市圏である首都圏は、ネットスーパーにとって最も効率がいい人口集積地であり、ここで成功しなければ、よそでうまくいくはずもない。
楽天側から見た、西友と組むメリット
楽天にとっても、リアル店舗を多く抱える西友とタッグを組むことは、重要な意味を持っている。
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