ウォルマートの「西友切り」は遅すぎた? それなのに今、楽天が西友とタッグを組むワケ:小売・流通アナリストの視点(2/4 ページ)
ウォルマートが保有する西友株式の85%を手放す。売却する株式のうち20%は、新会社を通じて楽天が取得するという。長らく伸び悩む西友だが、あえて今、楽天がタッグを組む理由とは?
九州・東北・長野で特に苦戦
例えば、九州では西友系の総合スーパー店のほとんどが閉店に追い込まれた。現在は「サニー」という、かつてM&Aした地場食品スーパーの店舗網が大半を占めている。60店舗ほどを九州中へ展開しており、売り上げは推定で500〜600億円規模だと思われる。これに対して、九州での競合環境は売り上げ規模でもはるかに上回るライバルがいくらでもいる。
同じく破綻組スーパーを取り込んだイオングループは、イオン九州が2200億円強(20年2月期)、ゆめタウンなどを運営するイズミは九州での売り上げが約2600億円ほど(20年2月期)である。その他にも九州に拠点を置くチェーンでは、売り場を参考にしようと他業種からの視察も多く訪れるという食品スーパー「ハローデイ」が約830億円(20年3月期)、昨今の“IT武装”で有名なディスカウントストア、トライアルカンパニーが約4830億円(20年3月期)など、高い壁がそびえたっているといえる。
加えて、食品領域へ注力しているドラッグストアのコスモス薬品の売り上げが約6840億円(20年5月期)、ドラッグストアモリが約1530億円(20年3月期)と、スーパー業界の外にも競合がひしめく。こうした強烈なライバルがしのぎを削る九州では、西友の影は極めて薄いといっても過言ではないだろう。
かつて西友が買収した地方スーパーの店舗網がある宮城県や長野県でも同じような状況だ。東北エリアは食品スーパーの中でも最強クラスである、ヨークベニマルのシェア拡大が進む中で、イオングループ、北海道や北東北中心に店舗を構えるアークスグループといった列強が顔をそろえる。長野においても、地場トップシェアの「ツルヤ」や、グループ売り上げが1兆円に達したベイシアグループ、急成長を続ける綿半グループなどが存在感を示している。これらのエリアでも、西友は防戦一方な印象でしかない。
“敗戦処理”のゆくえ
いくら西友が「世界のウォルマート」と組んだといえども、こうした地域では、下位勢力にすぎない。存在感を示すには相当な追加投資を要する状況にあったが、地方の局地戦に追加投資するのは非効率なので、ウォルマートの選択肢にはなかったのだろう。こうした状況を見れば、今回の投資ファンドKKRの役割が何であるのかは自然と見えてくる。
つまり、ネットスーパーと効率的に連携可能な首都圏に照準を合わせ、その他のエリアについては可能な限り高く換価回収を行った上で、企業価値を高めて「首都圏店舗網+ネットスーパー事業」というパッケージを楽天に譲り渡すことだ。残る15%出資をできる限り回収して、ウォルマートの“敗戦処理”は終結することになるのだろう。
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