賃金はこの先も上がらず…… コロナ禍ではびこる「内部留保肯定説」と、企業の自殺:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(1/4 ページ)
コロナ禍で企業の内部留保を肯定する声が出てきている。しかし、人件費を減らすことは長期的には企業を苦しめる。会社を動かし、生産性を高めるのは「人」だからだ。働く人の心身の健康が業績にもつながる。厳しいときこそ人に投資し、未来に備える必要がある。
緊急事態宣言が発令され、再び、不安が拡大しています。
特に雇用や賃金の不安は大きく、「この先、お給料は元に戻るのか?」「景気が回復すれば、賃金は上がるのか?」と心配する声があちこちから聞こえています。
結論から言うと……「いったん下がった賃金が再び上がるのは厳しい」と言わざるを得ません。
これまで日本企業は収益を働き手に還元せずに、溜め込んできました。OECD(経済協力開発機構)加盟諸国の統計では、主要13カ国の1994年と2018年の名目賃金上昇率は日本だけがマイナス4.54%です。四半世紀前と比べて、名目賃金は日本だけが減っているのです。
しかも、日本の実質の最低賃金はここ10年で20%上がったのに、最低賃金レベルで働く人も4倍増えてしまいました。07年には最低賃金=719円に近い、時給800円未満の人は7万2000人でした。ところが、17年には最低賃金=932円に近い、時給1000円未満の人は27万5000人。
つまり、最低賃金を国が上げたから、しぶしぶ企業は賃金を上げたのであって、それがなければもっと賃金を下げるつもりだったかもしれないのです。「いざなぎ景気を超えた!」と、内閣府が正式に判定したにもかかわらず、です。その結果、最低賃金レベルで雇われる若者が増え、いわゆるワーキングプアが増えました。
徹底的に賃金を安く抑えることで生産性を上げ、「内部留保」を増やす。このような日本企業のやり方は、世界から批判されてきました。
ところが、今回のコロナで「内部留保肯定説」なるものが出てきているのです。つまり、「内部留保が防波堤になり、コロナの悪影響を最低限に抑えられ、雇用を維持することに役立った」と。
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