なぜ「嘘ついて出社」? 数字に縛られる管理職を変える“リモート時代のマネジメント”:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(4/4 ページ)
「上司が有給休暇を取得して出勤している」という、霞が関で働く人の発信が話題になった。河野大臣は罰則に言及したが、正論だけで人は動かない。今は“リモート仕様のマネジメント”教育が不可欠。社員の自律性を高め、つながりを強めるマネジメントのための投資が必要だ。
感情を共有する「つながり」投資が不可欠
繰り返しますが、自律性とは「自分の行動や考え方を自己決定できる」感覚のこと。その「自律」を高めるには、つながりへの投資が必要なのです。トップは、「会社と社員」「上司と部下」「社員と社員」がつながるにはどうしたらいいかを考え、マネジャーも知恵をしぼり実行しなくてはダメ。
ある企業では、リモート勤務で失われる「ちょっとこれどうなってる?」「ちょっと昨日の顧客の情報ある?」「すみません、ちょっとこれ、分からないんですけど」といった“ちょっとちょっとトーク”が可能なアプリを開発していました。知恵をしぼり、同じ部署のメンバーが共有できる仮想空間を作ったのです。
また、あるマネジャーさんは「部下たちと感情を共有」する時間を1日に1回作っていました。「こないだ見た映画で、ほにゃららで……」などと感動を共有したり、「ついついリモートだと、テレビつけちゃって、ドラマ見ちゃうんだよなぁ」などと失敗を共有したりと、あえて「無駄な時間」「無駄な会話」を大切にしていました。
「共に居る」ことで、私たちは何百、何千という情報交換をしていて、特に感情の共有は人がつながるうえで極めて大切な“交換”です。
こういったつながりへの投資は、確実に「信頼」を生みます。ここでの信頼とは、「相手(部下)に課せられた責任を果たすことへの期待」です。
自律性が求められるリモートでは、フェースtoフェース以上に、信頼が安心感をもたらし、「よし、やるぞ!」とモチベーションを喚起させます。
信頼の上に信頼は生まれるのです。
河合薫氏のプロフィール:
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)、『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)がある。
関連記事
- 「上司の顔色伺い」は激減? テレワークでは通用しない“働かないおじさん”
新型コロナによって、多くの企業がテレワークや在宅勤務の導入を余儀なくされた。今後は新しい働き方として定着していくだろう。そうなると、上司と部下の関係も変わる。前例や慣習が通じない世界が待っている中、新しい上司部下関係を構築していく必要がある。 - 単なる“ワーク”と化す? 「ワーケーション」普及が幻想でしかない理由
旅先で仕事をするワーケーションについて、政府が普及に取り組む考えを示した。しかし、休暇中でも休まらないという問題があるほか、対応できるのはごく一部の企業。テレワークさえできていない企業も多い。IT環境整備をするなら、日常の生活圏を優先させるべきだ。 - 生き残りをかけたANA「400人出向」 左遷でなく“将来有望”のチャンス?
ANAホールディングスが社員を他社に出向させるとして注目されている。出向というとネガティブなイメージだが、企業にとっても社員にとっても「成長」への布石となる側面もある。人は環境で変わるからだ。新しい雇用の形として、他の企業も前向きに取り組んでほしい。 - 賃金はこの先も上がらず…… コロナ禍ではびこる「内部留保肯定説」と、企業の自殺
コロナ禍で企業の内部留保を肯定する声が出てきている。しかし、人件費を減らすことは長期的には企業を苦しめる。会社を動かし、生産性を高めるのは「人」だからだ。働く人の心身の健康が業績にもつながる。厳しいときこそ人に投資し、未来に備える必要がある。 - 賃金は減り、リストラが加速…… ミドル社員を脅かす「同一労働同一賃金」の新時代
2020年は「同一労働同一賃金」制度が始まる。一方、厚労省が示した「均衡待遇」という言葉からは、正社員の賃金が下がったり、中高年のリストラが加速したりする可能性も見える。そんな時代の変わり目には、私たち自身も働き方と向き合い続ける必要がある。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.