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日本が「世界の下請け工場」になる日――2021年、「曲がり角」に立つ2つの産業とは?24時間営業、垂直統合をどう変える(4/4 ページ)

2021年、曲がり角に立つコンビニと自動車産業。コロナ禍の影響もあるが、長らく続く伝統的なビジネスモデルの歪な構造が明らかになり、刷新する必要性が出てきている。両産業にはどんな課題があり、どう立ち向かうのか。

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日本のモノづくりと一線を画す「水平分業」

 同社はスマホでもPCでも、プログラム生成およびデザイン設計のみを行い、製造は他社に委ねる完全ファブレススタイルです。つまり、同社のビジネスモデルは、製造する工程ごとにより良いものをより安価に作れるパートナー企業を都度選定する、水平分業方式を基本としているのです。EV参入においても、現代自動車はじめ世界の製造業に製造委託の打診をかけていると思われます。これはわが国の自動車業界が長年にわたって築き上げてきた、大手メーカーを頂点として下請け、孫請け会社などが大挙連なるピラミッド構成の垂直統合方式とは、対極に位置するモノづくりの考え方であるといえるでしょう。

 EVは、燃料を燃やして動力に変えるガソリン車のような特殊技術を必要としないので、設計プログラムを基に従来の3分の1ほどの部品で、自動車専業ではない製造業でも組み立てが可能であるといわれています。もし今後EV開発が巨大資本であるアップルはじめGAFAなどのハイテクIT情報企業に先導され、彼らが世界の自動車生産の主導権を握るようなことにでもなれば、トヨタはじめわが国大手メーカーの垂直統合方式での自動車生産モデルは根底から崩されてしまうことにもなりかねません。自動車産業は、戦後日本の経済発展を支えてきた大黒柱ともいえる基幹産業中の基幹産業であり、トヨタをはじめ現在垂直統合ピラミッドの頂点にある各社がGAFA支配の下で世界の下請け工場に成り下がってしまうなら、日本経済そのものの将来性さえ閉ざしかねない由々しき問題なのです。

オールジャパン体制も求められる

 日本の自動車業界は、アップルらハイテク最先端企業に後れを取らぬよう、EV開発に向け早急に新たな動きをとる必要があるでしょう。具体的には、まず国内において垂直統合型から水平分業型への移行に踏み出すことが求められます。特に、自動車業界が自社のみでは世界の最先端に追い付けない領域、例えばITなどの分野で積極的かつ本格的な業務提携に乗り出すことが必要でしょう。

 こうしたことを見据えてか、トヨタは既にソフトバンク、NTT、パナソニックなどと業務提携を結んでいますが、どれも部分的かつ資本面でも少額にとどまっており、包括的提携には程遠い状況にあります。例えば、ドコモを完全子会社化し来るべき「6G」での覇権奪還を狙う新生NTTや、長年スマホ開発でアップルとしのぎを削りつつノウハウを蓄積し、独自でEV開発にも乗り出しているソニーなどとの包括的連携を結ぶことも必要なのではないでしょうか。


トヨタは各社との提携を結び始めているが……(出所:ゲッティイメージズ)

 1960年代以降、自動車産業がけん引する形で世界経済の先導役に躍り出た日本のモノづくりですが、ここ20年ほどはテレビ、スマホで負け続け、今やEVはじめ今後のモノづくりと密接な関係にある通信領域においても5Gで世界に後れを取るなど、このままでは日本経済沈没の危機感はつのるばかりです。IT分野における進歩スピードの速さを考えれば一刻の猶予もなく、今こそオールジャパンでEV開発の覇権を握るべく動くべき時ではないでしょうか。わが国の自動車業界にとって、本年を正念場にしなくてはいけないと個人的には思っています。

著者プロフィール・大関暁夫(おおぜきあけお)

株式会社スタジオ02 代表取締役

横浜銀行に入り現場および現場指導の他、新聞記者経験もある異色の銀行マンとして活躍。全銀協出向時は旧大蔵省、自民党担当として小泉純一郎の郵政民営化策を支援した。その後営業、マーケティング畑ではアイデアマンとしてならし、金融危機の預金流出時に勝率連動利率の「ベイスターズ定期」を発案し、経営危機を救ったことも。06年支店長職をひと区切りとして銀行を円満退社。銀行時代実践した「稼ぐ営業チームづくり」を軸に、金融機関、上場企業、中小企業の現場指導をする傍ら、企業アナリストとしてメディアにも数多く登場。AllAbout「組織マネジメントガイド」役をはじめ、多くのメディアで執筆者やコメンテーターとして活躍中。


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