御殿場市の「一見さんお断り」は、ビジネスとしてアリかナシか:“いま”が分かるビジネス塾(3/3 ページ)
静岡県御殿場市が新型コロナの感染を懸念する飲食店に配布した「一見さんお断り」のポスターが波紋を呼んでいる。首都圏からやって来る顧客を断る内容だが、こうした行動はビジネスとして妥当なのか。
行政が介入するのは慎重になったほうがよい
今回の対応で唯一、問題があったとすれば、やはり行政がこのポスターを作成して配布したことだろう。飲食店の場合、「一見さんお断り」を伝達すると顧客から過激なクレームを受けることがあり、一部の店はそれを懸念していたという。
だが、こうした問題に対して行政の名前を出して解決を試みれば、それはそれで、ある種の威圧的手段になってしまう。また行政というのは、原則として民間の事業に介入すべきではなく、特定地域の人を拒絶していると受け取られかねない言動は、基本的人権という観点からもやはり慎重でなければならない。
筆者も長く会社を経営してきたので、モンスタークレーマーの問題はよく理解している。だが、事業を営んでいる以上、誰を顧客にするのかは商売人としてもっとも大事な部分であり、望まない顧客は勇気を持ってシャットダウンする胆力が事業主(店主)には求められる。
長くレストランを経営している筆者の知人は、禁煙問題が社会で大きく取り上げられる前から店内禁煙のポリシーを貫いてきた。今でこそ喫煙者は禁煙ルールに従うようになったが、以前は、喫煙者から暴力的な脅しを何度も受けてきたそうである。
それでも店主は自身の店で提供する料理のコンセプトとタバコは合わないと考え、クレーマーには毅然とした態度で接してきた。最終的には地域の住人が、その店は禁煙であることに納得し、大きなトラブルはなくなったという。全員がこの店主のように振る舞うことは難しいかもしれないが、本当の顧客は誰なのかという点を考えれば、商売道としては重要なことだろう。
多くの事業者が、少ない利益の中、何とか経営努力を続けていることはよく理解できるが、こうした非常事態においては一定期間、店を閉めることができる内部留保を確保しておくことも、商売人のつとめの一つである。
世の中のシステムは、ビジネスで収益を上げて税金を納める事業者と、その税金を使って公益的な業務に従事する行政組織の間で明確な役割分担ができている。苦境に陥っている地域事業者を助けたい気持ちは理解できるものの、行政側が私的なビジネスのあり方に関与することは、可能な限り避けるべきだろう。
加谷珪一(かや けいいち/経済評論家)
仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。
野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に「貧乏国ニッポン」(幻冬舎新書)、「億万長者への道は経済学に書いてある」(クロスメディア・パブリッシング)、「感じる経済学」(SBクリエイティブ)、「ポスト新産業革命」(CCCメディアハウス)などがある。
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