映画「えんとつ町のプペル」を大ヒットに導いたオンラインサロンは信者ビジネスなのか?:専門家のイロメガネ(2/5 ページ)
映画「えんとつ町のプぺル」がヒットした背景には、西野氏が率いる「オンラインサロン」がある。7万人以上が参加するオンラインサロン「西野亮廣エンタメ研究所」は映画のヒットにも寄与したといわれているが、サロンを活用した集客・マーケティングは賛否も呼んだ。このオンラインサロンの実態とは?
オンラインサロンの最終形態は、まさに「信者ビジネス」
実は筆者自身、オンラインサロンに入ったことを公言した際に「何か変な宗教にでも入ったのかと思った」と知人に心配された経験がある。
「えんとつ町のプペル」の映画化に際して、西野氏のオンラインサロンのメンバーは積極的にその実行と拡散に協力していた。前売りチケットを何十枚も購入して売り歩いたり、1人で何度も映画を見に行ったりという報告がSNSでも散見された。
はたから見るとサロンにお金を払っている「客」なのに、なぜ映画や西野氏のためにそこまで頑張るのか? いいように使われているだけじゃないのか? と思うのもおかしくはない。それが信者ビジネスや情弱ビジネスという批判につながっている。
とはいえ、熱狂的なファンを作りビジネスを動かしていくやり方は、実はブランドビジネスの王道中の王道でもある。信者ビジネスという表現はネガティブなイメージで使われるが、全てのビジネスの目指す先は熱狂的な顧客、別の呼び方をするなら信者の獲得だろう。
例えばブランド力の強い企業として名前が挙がるアップルやスターバックスコーヒーであっても、客は「他社のスマホと比べて機能が優れているから」「コーヒーが美味しいから」など論理的な理由だけでその商品やサービスを選んでいるわけではない。
アップルだから、スタバだから買う。これがまさにブランド力だ。
オンラインサロンは目的ではなく、手段である
西野氏の場合に顕著だが、彼の目的はオンラインサロンの会費で利益を得ることだけではないだろう。7万人におよぶ自身のファンや応援者をコミュニティに囲い込むことで、映画や絵本、イベントなどで必要なプロジェクトの資金調達や集客を容易にしている。
西野氏に限らず、主宰者が圧倒的な影響力を持つコミュニティにでは「主催者のために貢献したい」という参加者側の意欲が強い。それがクラウドファンディングの支援やボランティアスタッフとしての労働へ往々にしてつながっている。
ファンが集まることによって主宰者がより神格化されるという側面は否定できない。オンラインサロンはクローズドのコミュニティであり、似た価値観の人が集まりやすく、そのため「エコーチェンバー現象」が起きやすいからだ。エコーチェンバー現象とは閉鎖的な場でコミュニケーションが繰り返されることによって、特定の思想や考え方が強化される状況だ。
もし主宰者側が、サロンの参加者を金づるという意味で「信者」として扱っていれば問題だが、熱狂的なファンが信者となり、その人や商品を応援するという構図はいたってシンプルなビジネスの原理である。
あなたの周りにアップル信者と言われるような人はいないだろうか? このブランドの洋服しか着ないと公言する人はいないだろうか? 自身の生活を犠牲にしても歌手やアイドルを応援している人はいないだろうか?
彼ら・彼女らは客であるにもかかわらず、その良さを周囲に宣伝して回ることも珍しくない。信者ビジネスを「熱狂的な顧客を獲得しているビジネス」と定義するのであれば、問題があるどころかむしろ正しい手法ということになる。
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