リモートワークは絶対正義か 非リモート企業への「ブラック」批判が的外れなワケ:働き方の「今」を知る(4/4 ページ)
リモートワーク企業が増えているが、その一方で非リモートワーク企業への風当たりも強くなっている。中には「リモートワークできるのに、させてもらえない企業はブラック」という批判も耳にする。しかし、それは本当に正しいのか。
「リモートワーク=多様性」なのか
世の中には、リモートワークしたくても叶わない業種や職種が存在する。そういった仕事に従事する人たちの感染リスクを抑制するためにも、リモートワーク可能な職種が率先してリモート対応することは必要であろう。しかしそれは決してリモートワークが「絶対正義」というわけではないし、ましてや非リモートワーク企業をブラックだと批判したり、見下げたりしてよいというわけでは全くない。
先述したように、リモートワークにもオフィス出社にも、それぞれメリットとデメリットが存在する。また同じ組織内においても、リモートワークを好む人もいれば、「リモートではやりにくさを感じるから、出社して対面で仕事をしたい」と考える人もいるだろう。
リモートワークを巡っては「多様性」というキーワードが語られることも多いが、リモートワークをすることだけが多様性なのではないことに注意が必要だ。あくまで「リモートワーク“も”可能な環境が整備されている」「出社もリモートワークも平等に選択できる」といった具合に、「社会情勢や働く人の価値観に合わせた多様な働き方ができること」こそが、本当の多様性なのではなかろうか。
もちろん、感染対策が全くなされないまま、「リモートワークはいろいろ面倒だから」といった程度の理由で出社を強要するのは問題外だ。しかし、然るべき対策がなされているのならば、「そういう方針の企業なのだ」「出社によって得られるメリットのほうが大きいのだろう」「対面ビジネスのニーズがあるのかも」と捉えることもできよう。方針が自分に合わないのならば、辞める自由は社員の側にあるし、ましてや自分の人生に何の関係もない別の会社の方針を批判するのはお門違いといえるだろう。
選択肢の多さが重要 リモートワークも選択肢の一つなだけ
同様のことは、俗に「先進的」と称される取り組み全般についても当てはまる。「支払いのキャッシュレス化」「週休3日制」「社員の個人事業主化」――いずれも、取り組んでいない、対応していない会社に対して「遅れている」「ブラック」と批判される向きがあるキーワードだが、単純に良い悪いで判断できるものではない。
むしろ全企業が対応を一律でそろえる必要はなく、「必要になったときにいつでも柔軟な選択ができる状態にしておくこと」こそが重要なのだ。リモートワークはあくまでオプションの一つでしかない。そう考えると、リモートワークできるのにやらせないことよりも、「そもそも選択肢が少なすぎること」や、「必要なときに肝心の決断ができないこと」の方こそ批判されるべきであろう。
今後は、働き方のみならずあらゆる分野で、既存以外のさまざまな手段や方法を選択できることが当たり前となっていき、企業にはそれらを整備して提供するとともに、うまく使い分けることが求められるようになるはずだ。それは、単に「リモートワークに対応しろ」とだけ命令し、従業員を一律に管理するよりも困難な道となるだろうし、経営者や管理職は組織を構成するメンバーひとりひとりが最大限の力を発揮できるよう、個人と向き合っていかねばならなくなるだろう。
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