リモートワークは絶対正義か 非リモート企業への「ブラック」批判が的外れなワケ:働き方の「今」を知る(3/4 ページ)
リモートワーク企業が増えているが、その一方で非リモートワーク企業への風当たりも強くなっている。中には「リモートワークできるのに、させてもらえない企業はブラック」という批判も耳にする。しかし、それは本当に正しいのか。
同社は20年4月の緊急事態宣言から1カ月半の間は全社リモートワークであったが、6月1日から通常出社体制に戻している。
同社社長の藤田晋氏は、リモートワークのメリットとして「オンライン会議の利便性、移動コスト削減、オフィス賃料見直し、通勤ストレス軽減」などを挙げながらも、デメリットとして「当社の強みである一体感、チームワークが損なわれ、極端な成果主義、個人主義に振らざるを得なくなる。これは当社の根本的なカルチャーと相性が悪く、強みが失われかねない」と述べている。
リモートワークが可能でも、向き・不向きはある
実際、サイバーエージェントのビジネスはリモートワークとの親和性も高く、緊急事態宣言解除後も、全社リモート体制を継続することは問題なく可能であった。しかし同社では事業の伸長に関して、効率性だけではない別の要素を重視していた。それは同社の強みかつカルチャーであり、同社内で「関係性」と呼んでいる「メンバー同士の目に見えない一体感」ともいえるものだ。同社にとって優先度が高いのは「社員同士の関係性が強い組織であり続けること」であり、リモートワークはむしろ、「リアルで培われた関係性の貯金を食いつぶしていくこと」という認識だったのだ。
現在同社では再度リモートワークを推奨しているが、出社率は3割程度だという。リモートワークの中でも強い関係性を維持するために、メンバーには「積極的な情報発信」を促し、マネジメント側には「メンバーを積極的に理解して知ること」を求めている。これは決して部下の働きを監視するわけではない。メンバーの日報に書かれた個々人の考えや目標に対して、マネジャーがきちんと目を通して返信なども書き込み、場合によっては褒めたり指導したりすることで、「上司は自分のことをきちんと見てくれており、評価もしてくれる」という安心感を醸成するためのアクションだ。
先出の日本生産性本部調査によると、20年5月時点では「自宅での勤務で効率が上がったか」との設問に対して「やや下がった」「下がった」という回答を合わせると66.2%にものぼり、当時は多くの人が自宅でのリモートワーク遂行に関してまだ手探り状態であったことが伺える。ちなみに本年1月時点での調査結果は、「やや下がった」「下がった」の合計が45.4%まで低下し、「効率が上がった」「やや上がった」の合計が54.5%と逆転。1年弱の期間で、リモートワークに適合した職種や企業の選別が進み、リモートワーク可能な企業であっても、サイバーエージェントのように自社が不向きだと感じれば出社へと戻し、最適化が進んでいるのだろう。
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