リモートワークは絶対正義か 非リモート企業への「ブラック」批判が的外れなワケ:働き方の「今」を知る(2/4 ページ)
リモートワーク企業が増えているが、その一方で非リモートワーク企業への風当たりも強くなっている。中には「リモートワークできるのに、させてもらえない企業はブラック」という批判も耳にする。しかし、それは本当に正しいのか。
緊急事態宣言で「脱オフィス企業」も続出
一度目の緊急事態宣言後、借りていたオフィスビルを解約し、社員全員が完全リモートワークに移行した会社の事例がいくつか報道され話題となった。各社の意図はさまざまだが、おおむね「もともとリモートワークを実践しており、緊急事態宣言をきっかけにフルリモート・脱オフィスに移行しやすかった」「オフィス賃料が浮いた分を他の投資に回したり、不況時の備えにとっておいたりできる」「物理的な事務所をなくすことで、紙やハンコといった他の不効率要素も同時に排除できて効率化が進む」といった背景やメリットを感じているところが多いようだ。
「日本一残業の少ないIT企業」を掲げるシステム開発会社のアクシアも、20年4月に東京と札幌のオフィス解約を決定している。
同社社長の米村歩氏は「従業員がオフィスで顔を合わせることに一定の効果は間違いなくある。オフィスが完全に不要とは考えていない」とする一方で、「オフィスや店舗に出社することが必須の業種も多数存在している。だからこそ、われわれのようなリモートワークが可能な業種の人間が出勤せずに自宅で仕事するようになれば、その分満員電車も解消され、どうしても出勤しなければならない職種の人達の感染リスクを減らすことにもつながる」「今回のコロナ禍のような緊急時には、リモートワーク可能な会社ができる限りリモートワークを行えるように努力することは、その企業の社会的責任だと考えるようになった」と述べている。リモートワーク推進派の方の多くも、同様の考えであろう。
「そもそもやろうとしない会社」と「あえてやらない会社」の違い
さて、ここからは議論の切り分けが必要だ。「リモートワーク可能なのに」という前提は共通ながら、「そもそもやろうとしない会社」と「あえてやらない会社」とでは全くスタンスが異なる。そこを無視して十把一絡げに批判してしまっては、単なる表面的な非リモートワーク企業叩きになりかねない。
前者については、筆者の過去連載記事でもたびたび批判してきた。リモートワークを積極推進しない理由として「従業員がサボっていないか心配」「社員をうまく管理できない」「紙の書類にハンコが要るから出社せざるを得ない」「オンラインだとうまくコミュニケーションがとれない」――こうした点を挙げているような会社は、リモートワークが悪いのではなく、「その会社に元からあった問題が、リモートワークをきっかけに顕在化した」だけである。こちらは単なる「経営者の怠慢」と言い切って良いだろう。
【参照】テレワークで剥がれた“化けの皮” 日本企業は過大な「ツケ」を払うときが来た
一方で、一度は全社リモートワーク体制にしたものの、緊急事態宣言解除後、従来の出社体制に戻した会社も存在する。サイバーエージェントもその1社だ。
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