“見放され世代”を襲う、コロナ禍の非正規切り 今こそ直視すべき「人を育てる」意義:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(4/4 ページ)
政府が就職氷河期世代への支援に取り組もうとする中で、新型コロナ感染拡大が起きた。非正規を中心に、多くの人が解雇されている。そんな中、NTTとKDDIは共同で氷河期世代の就労支援を実施すると発表。安心して能力開発ができる制度をさらに広げてほしい。
NTTとKDDIは氷河期世代に就労支援
せめて40代の非正規雇用だけでも、「不安定雇用手当」を義務付けてはどうか。だいたい、氷河期世代の非正規の人の能力が低いような表現が当たり前のように使われていますが、
「40代の非正規スタッフの能力は高い」
「正社員が仕事を教えてもらってる。うちの会社は氷河期世代の非正規スタッフなしには回らない」
「若者活用とかで、若い世代にはチャンスは与えられているけど、結局上司はフォローしないから40代の非正規の人たちが彼らにノウハウを教えている」
こういった意見を私はたくさん聞いてきました。
「コロナ後の日本の最優先課題は生産性の向上だ」と、誰もが口をそろえます。生産性向上には、人の能力を最大限に生かすことが必要だということを否定する人はいません。その能力を引き出すには「心と体が健康である」ことが必要条件です。
果たして、その生産性向上の対象に、非正規の人たちは入ってるのでしょうか? かりそめの氷河期世代支援策では、問題は深刻化するばかりです。
「この世代の人々が必要なスキルを得てキャリアアップし、正規化する仕組みをつくることは、いくつになっても充実した働き方ができる社会をつくる重要な第一歩だ」(前述)というなら、その前段階として、コロナ禍の「今」を精神的にも肉体的にも健康で過ごし、「よし! 頑張ろう!」と前向きになれる支援をしなければ、救える人も救えなくなってしまいます。
そんな中、先日、NTTとKDDIが就職氷河期世代の就業を支援する事業を共同で行うと発表しました。報道によれば、IT産業に入りたかったけれど入れなかった人たちにIT研修を行い、300人以上の雇用を目指すそうです。
これだけで氷河期世代の問題が解決するわけではないですが、「会社の中に居場所」があり、安心して企業が求める能力開発に取り組める制度の導入を、他の企業でも進めてほしい。
今こそ、「人」に投資する。コロナ後生き残るのは、「人」の可能性を信じ、潜在能力を引き出す手だてを作った企業だけです。
河合薫氏のプロフィール:
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)、『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)がある。
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