“高齢”免許を定年制にすべきか? マツダ福祉車両から見るミライ:高根英幸 「クルマのミライ」(3/4 ページ)
裁判の進捗状況に怒りを覚えた方も少なくないのではないか。「上級国民」という流行語を生んだ、池袋暴走事故を起こした旧通産省工業技術院の元院長飯塚幸三被告(89)の態度である。在宅での起訴となり、供述ではペダルの踏み間違いを認めていたにもかかわらず、裁判に入るや供述を覆し、クルマの故障を訴えだしたのだから、国民の感情を逆なでしたことは間違いない。
それでも一律に年齢で運転を取り上げるのは危険
すでに欧米では、運転できる条件を絞り込んだ高齢者向けの免許が導入されている。日本では「サポカー限定免許」が22年度に創設されることが発表されているが、現時点での情報では、切り替えを希望した者が対象だという。強制力のない免許になるようだから、まだまだ効果は限定的だ。有権者である高齢者からの反発を恐れているのだろうが、そこにも「運転免許は既得権益」という意識が根底にある。
日本でも国立研究開発法人国立長寿医療研究センターなどの研究機関や大学研究室などが、高齢ドライバーの運転特性を研究しており、運転する条件を限定したり、運転前の準備を整えたりすることで運転能力の衰えをカバーする「補償運転」という考えを広めつつある。
やはり運転能力の維持と運転条件の規定を組み合せて対策すべきだと、筆者は考えている。前述のように「クルマの運転ならば……」と甘く考えている高齢ドライバーに対し、運転することの責任の重さ、身体機能などの低下による運転の危険性に気付いてもらい、自分の状態に合ったトレーニングを続ける習慣をつけてもらうのだ。そうすれば高齢者でも安全に運転できる運転寿命は延ばせるはずだ。
運転寿命を伸ばす努力をしているドライバーと、全く努力することなく老化していくだけの高齢ドライバーとを、一緒に年齢だけで運転能力を判断してしまうような、年齢一律の定年制は望ましくない。高齢ドライバーによる重大な交通事故や逆走などの問題が起こると、運転免許を定年制にすべきだという意見が挙がるが、そういう人は自分が後期高齢者になった時のことを想像していないのではないだろうか。
クルマを運転しなくても生活できる人は、運転免許を返納することにも抵抗がないだろう。しかし自分で運転して移動することで生活が成り立っている人も多く、自分でクルマを運転してどこかへ行くことが生きがいになっている人もいる。そうした人は免許を返納すると、急に認知機能が低下するケースも少なくない。
クルマの運転は気分を高揚させ、脳の活性化につながるというデータもある。運転能力を保持している高齢者には、運転を続けて経済活動の一端をになってもらうことが、日本経済にとっても望ましい。
後期高齢者は毎年、認知機能や運転能力を検査する制度を作ってもいいのではないだろうか。自動車教習所などが、その役割を担うことになれば新たな需要や雇用も生まれる機会にもなりそうだ。
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