「EV化で30万人が仕事を失う」説は本当か:“いま”が分かるビジネス塾(4/4 ページ)
EVの普及によって雇用が30万人失われる――。2月、このような記事が話題になったが、この数字は本当なのか。ガソリン車と比べEVは部品点数が少ないので、部品メーカーが淘汰されるのはほぼ間違いないが、その一方で……。
地域によっては深刻な影響を受ける可能性も
EV化によってもっとも深刻な影響を受けるのは、自動車部品メーカーに部品を納入する企業で、かつ製品の多くが内燃機関に関連したところだろう。顧客である大手部品メーカーが全面的にEVにシフトした場合、下請けメーカーとの契約を一気に見直す可能性がある。
地方ではこうした専業の部品メーカーが地域の雇用を支えているケースがあるので、EVシフトの影響は地域によってバラツキがあると考えたほうがよい。政府や自治体は、影響に大きな差があることを前提に、産業構造シフトの影響が最小限ですむよう、職業訓練などの施策を今から検討しておく必要がある。
これは自動車業界の話だが、製造業からサービス業へのシフトは日本経済全体に共通の傾向であり、年々、製造業の比率が低下している。現時点で日本には約6700万人の就業者がいるが、このうち製造業に従事しているのは1000万人程度である。製造業に従事している人の1割がサービス業にシフトすると、それだけで100万人規模の雇用が流動化する。
30万人という数字に過度にこだわる必要はないが、仕事が変わるという意味ではさらに多くの労働者がEV化の影響を受けるだろう。そして同じ動きは、あらゆる業界に“加速”していくはずだ。
加谷珪一(かや けいいち/経済評論家)
仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。
野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に「貧乏国ニッポン」(幻冬舎新書)、「億万長者への道は経済学に書いてある」(クロスメディア・パブリッシング)、「感じる経済学」(SBクリエイティブ)、「ポスト新産業革命」(CCCメディアハウス)などがある。
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