「EV化で30万人が仕事を失う」説は本当か:“いま”が分かるビジネス塾(3/4 ページ)
EVの普及によって雇用が30万人失われる――。2月、このような記事が話題になったが、この数字は本当なのか。ガソリン車と比べEVは部品点数が少ないので、部品メーカーが淘汰されるのはほぼ間違いないが、その一方で……。
部品メーカーの雇用は失われるが……
自動車がEV化されると部品点数が大幅に減る、という記事の指摘は概ね事実である。基幹部品であるモーターとバッテリーは汎用品なので、需要さえあれば規格化された製品を大量生産することで、大幅なコストダウンが見込めるし、何より両者については、製品を供給するメーカーがたくさん存在している。
加えてEVは、重量のあるトランスミッション(変速機)も不要であり、ラジエーターなどの冷却系統、マフラーなど排気系統も必要ない。部品点数は従来型ガソリン車と比較すると10分の1程度になる可能性が高いだろう。自動車メーカーは傘下に多数の部品メーカーを抱えていたが、部品点数が10分の1になれば、一部の部品メーカーは自動車メーカーにとって不要となる。30万人という数字の根拠は明らかではないが、その程度で済めばむしろラッキーと考えたほうがよいくらいの規模感かもしれない。
しかしながら、EV化の進展は一方的に雇用が失われることを意味するわけではない。自動車業界はEV化と同時並行で自動運転へのシフトも進んでおり、すでに中国では完全自動運転タクシーの商用サービスがスタートしている。日本は自動運転への対応が遅れているが、それでも近い将来、多くのクルマが自動運転対応となるだろう。
そうなるとクルマは自律的に動ける存在となるので、所有して運転するものから、随時利用するものへと質的な変化を遂げる。これは物流や運輸などあらゆる業界を巻き込んだ大きなビジネスチャンスとなるため、この領域にはかなりの人材が必要となってくる。
つまり、EV化の進展は自動車産業の質的な転換が進むという意味であって、一方的に市場が縮小していくわけではない。ただ、従来と同じように内燃機関の部品を製造することに固執すれば、確実に雇用を失うという話だ。
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