ウォルマート、ECが大躍進──“日常”が戻っても、伸びそうなのはなぜ?:石角友愛とめぐる、米国リテール最前線(2/3 ページ)
ウォルマートの業績が好調だ。米国では人々がノーマルな生活に戻りつつあるにもかかわらず、ECの売り上げは37%も増加している。その背景にある、データとAIに関する戦略について解説する。
例えば、IBMの試算によると、米国だけでも不良データの年間コストは3.1兆ドル(338兆円近く)に上るそうです。また、ガートナー社は、企業が不良データのために年間1,500万ドルの損失を出していると推定しています。企業がデータ品質の問題に対処するために収益の15〜25%を無駄にしていると見積もる専門家もいます。
さらに、ハーバード・ビジネス・レビューによると、従業員はデータを探したり、エラーを修正したり、不確かなデータの情報源を確認したりすることに、業務時間の50%を費やしているそうです。
このように、質の低いデータはビジネスにとって役に立たないだけではなく、むしろ悪影響であることが分かっているため、ウォルマートでは以下のようなデータクオリティーに関するポリシーを作っているとのことです。
ウォルマートのデータクオリティーポリシー
- データを効果的に管理するために、管理者には具体的な役割と責任を与える
- データを分類する際には正しい方法で行う
- 組織内および第三者とデータ共有する際には責任ある共有方法を用いる
- データを製品として利用する際にはセキュリティと品質を確保するためのルールを設ける
私自身、グーグル本社に勤務していたときに、データクオリティーコントロールのチームに属していました。その経験から、単にビッグデータを収集すれば良いわけではなく、質の高い関連性のあるデータを収集し分類することで、初めて社内でのデータ共有や意思決定ツールとして使われる基盤が作られるのだと確信しています。
ウォルマートのチーフデータオフィサーがデータクオリティーに関してこのように意見を発表しているのは、ウォルマートが抱えるデータの幅の広さと深さを表しています。結果的に集まってしまう質の低いデータをいかに効率的に排除できるか、より質の高いデータをどのように収集するのか、その仕組み作りに多大なる投資をしていることが伺えます。
EC売り上げを増やす“動画生成AI技術”
また、ウォルマートではECの売り上げ増加のため、動画コンテンツとAIをかけあわせた取り組みを行っています。この成果にも、今後より期待できそうです。
ウォルマートのソフトウェアエンジニアのRahul Bajaj氏の最新のブログには、ECサイトに動画を導入するメリットがまとめられています。
- 96%の消費者が、オンラインで何を購入するか決める際にビデオが役立つと考えている
- ECを利用する顧客のうち79%が、製品に関する情報を得る方法としてページ上のテキストを読むよりもビデオを見たいと考えている
- 適切な製品ビデオは、購買消費(コンバージョン)を80%以上増加させる
また、Ice.comの調査では下記のデータが判明しています。
- 動画を見た人のコンバージョンは見なかった人の4倍にも上り、動画のおかげで返品率が25%低下した
このように、動画とECビジネスには密接な関係性があると考えられます。
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