ウォルマート、ECが大躍進──“日常”が戻っても、伸びそうなのはなぜ?:石角友愛とめぐる、米国リテール最前線(3/3 ページ)
ウォルマートの業績が好調だ。米国では人々がノーマルな生活に戻りつつあるにもかかわらず、ECの売り上げは37%も増加している。その背景にある、データとAIに関する戦略について解説する。
ウォルマートのECサイトで顧客に購買を訴求する際、商品を販売する売り手が提供した画像と情報だけでは魅力的になりません。そこで、Rahul Bajaj氏はAIを使って、自動的に商品紹介動画を作成できるる手法を提案しています。AIによるナレーションまでつけられるというから驚きです。
先述のRahul Bajaj氏のブログによると、動画自動生成は以下の手順です。
(1) Walmart.comで商品を販売したいメーカーが提供した商品画像を使って簡単な動画を生成する(OpenCVのようなオープンソースのライブラリを使って、提供された画像をシーケンスとして整理し、それらの画像の横に説明のポインタを置くだけで、簡単な動画を生成することができるとのこと)。
(2) 動画にAIナレーションを追加する(音声合成エンジンが利用可能。例えば、グーグルが開発したTacotron2はデータをテキストから音声に自然な形で変換するアルゴリズムとして、特に短いテキストの変換に適していると指摘)。
(3) 画像と商品紹介情報のセマンティックな関係を理解してどのタイミングでそれぞれを表示するかを決めるため、独自の「フュージョンモデル」を開発する(商品紹介情報と各画像との関連性などを数値化して表示順を決める)。
簡単に紹介しましたが、動画生成には非常に複雑な工程があることが分かります。ブログで手法を提案しているにすぎず、ウォルマートで実際にこのような開発が行われているかどうかは分かりませんが、少なくとも検討はしていると考えられます。
また、冒頭で紹介したデータクオリティーの観点でこの動画生成技術を考察すると、メーカーが提出した商品画像や紹介文章にもし間違いがあったり、商品内容と一致しないものであったりしたら、このような動画は容易には生成できません。画像の解像度が低かったり、そもそも画像を一枚も提供してもらえなくても、難しいでしょう。すなわち、メーカーとのデータクオリティーコントロールを実施すること自体が、ECサイトでの売上に直結する非常に大事な取り組みだと言えます。
次回は、ウォルマートのIoTやロボティクスなどに関する取り組みをご紹介します。
著者プロフィール:石角友愛(いしずみ・ともえ)
パロアルトインサイトCEO/AIビジネスデザイナー
2010年にハーバードビジネススクールでMBAを取得したのち、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAI関連プロジェクトをシニアストラテジストとしてリード。その後HRテック・流通系AIベンチャーを経てパロアルトインサイトをシリコンバレーで起業。データサイエンティストのネットワークを構築し、日本企業に対して最新のAI戦略提案からAI開発まで一貫したAI支援を提供。AI人材育成のためのコンテンツ開発なども手掛け、順天堂大学大学院医学研究科客員教授(AI企業戦略)を務める。毎日新聞「石角友愛のシリコンバレー通信」など大手メディアでの寄稿連載を多く持ち最新のIT業界に関する情報を発信している。
著書に2021年4月発売の『いまこそ知りたいDX戦略』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、2021年3月発売の『経験ゼロから始めるAI時代の新キャリアデザイン』(KADOKAWA)、『いまこそ知りたいAIビジネス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『才能の見つけ方 天才の育て方』(文藝春秋)など多数。
パロアルトインサイトHP:www.paloaltoinsight.com
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com
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