「リスキリング」とは何か 有能な人材が欲しいなら、必要不可欠:注目の言葉(2/2 ページ)
新しいスキル・能力・知識を身につけていくことを指す「リスキリング」。これまでも「学び・学習(学び直し)」や「人材教育・人材育成」などがあったが、このタイミングでリスキリングに注目が集まるのはなぜか。
DXがリスキリングを迫る
コロナ禍以前から多くの日本企業が、経営者がデジタル化の必要性を認識し、AI、IoT、ビッグデータといったテクノロジーを駆使したDXを進めている。創業以来の伝統的なモノづくり企業が自らを「デジタルソリューションカンパニー」と再定義し、ビジネスモデルの転換や大胆な業務プロセス改革を目指し、さまざま取り組みが行われている。
そうした改革を推し進めようとしても、実際にビジネスを行う現場の大多数の社員がデジタル化に向けて同じビジョンを共有できないことには、DXは実現不可能である。デジタルを理解できる・扱える人材づくり、すなわち社員をデジタル仕様にしていくリスキリングの取り組みが不可欠となる。
代表的な事例としては、パナソニック、NEC、日立製作所、ダイキン工業などの社内教育機関(社内大学)で実施されているAI人材育成プログラムである。各社は1000〜3000人規模でデジタルのリテラシーのみならず、社内のDX関連プロジェクトへの派遣といった実践形式のコンテンツを整備してリスキリングを行っている。
従来こうした先進的なテクノロジー教育は、若手人材を対象に行われることが多かったが、近年目にするようになったのは全社員を対象とした取り組みである。
既存事業がデジタルとそれほど関連していない企業では、一部の人材をデジタル人材に育成してもその上に立つ人がデジタルを理解していなければ、せっかくの取り組みも成果へとつながらない。特に年功序列的な組織では既存事業を知り尽くし、昔ながらのやり方を正とするベテランと、デジタルを教育され、デジタルでビジネスを創出していこうとする若者の間で、コンフリクトが生じることは当然の帰結といえる。
ベテラン社員の抱えるデジタルへの恐れを取り除くためには、一部の若手社員だけではなく全社員に対して「デジタルを知る」、すなわちリスキリングの機会を与え、デジタルリテラシーを身に着けさせることが重要である。そうすることで世代・部門を超えてコンフリクトを解消していくことで、DX実現への一歩を踏み出せるのである。
雇用流動化がリスキリングを迫る
年齢やキャリアに関係なくスキルやジョブに対して処遇する「ジョブ型」人材マネジメントが話題となる中、デジタル人材や金融といった一部の職種・業種に限らず、今後雇用の流動化が進展することが想定されている。こうした従来の新卒一括採用秩序の崩壊は、日本企業の人材マネジメントの見直しを一気に加速することになる。
人材マネジメントには、等級、評価、報酬といった人事制度だけではなく、教育研修、ジョブローテーションといった人材育成体系も含まれる。ジョブ型人材マネジメントの基本思想は自分自身のキャリアパスを「会社任せ」から「自分自身でデザイン」へと権限移譲するものであることから、個人のキャリア形成意識が格段に高まることになる。
人材獲得のためには、「魅力的な報酬水準や労働環境の提供」だけを強化してもアピールになりがたく、むしろ「スキルアップ(リスキリング)の機会提供」がこれからの人材獲得競争力を左右する要素となる。
各企業は雇用が流動化する中で、優秀な人材を労働市場から調達し社内にリテンションするために、リスキリングを含む教育機会整備に注力していくこととなる。
著者紹介:内藤琢磨(ないとう・たくま)
株式会社野村総合研究所 コーポレートイノベーションコンサルティング部 組織人事・チェンジマネジメントグループ グループマネージャー/上席コンサルタント。
慶應義塾大学商学部卒業。1987年千代田生命保険相互会社、2000年朝日アーサーアンダーセンビジネスコンサルティングを経て、2002年野村総合研究所入社。国内大手グローバル企業の組織・人事領域に関する数多くのコンサルティング活動に従事。専門領域は人事・人材戦略、人事制度設計、グループ再編人事、タレントマネジメント、コーポレートガバナンス。主な著書・論文に『人事制度改革』(共著、東洋経済新報社、2001年)、『NRI流 変革実現力』(共著、中央経済社、2014年)、『「強くて小さい」グローバル本社のつくり方』(共著、野村総合研究所、2014年)、『デジタル時代の人材マネジメント』(東洋経済新報社、2020年)がある。
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