技能実習生は今も「低賃金・重労働」の担い手なのか? 「夕張メロン問題」から考える:働き方の「今」を知る(3/5 ページ)
夕張メロンの減産がニュースになり、その理由が「技能実習生不足」ということから大きな話題を呼んだ。「低賃金・重労働」を押し付けられ、過酷な事情を耳にすることも多い同制度だが、実情はどうなっているのか。
冒頭の夕張メロン農家に限らず、労働力の多くを外国人実習生に頼っている事業所は多い。例えば、国内有数のホタテ水揚量で知られる北海道猿払村においても、ホタテの殻を剥く作業の人手を地元では確保できず、多くの中国人実習生で補っている。加工場経営者はメディア取材に対し、「実習生なしでは、この加工場、いや村はもうやっていけない」と述べていた。まさに実習生の存在は、理念で否定しているはずの「労働力の需給調整手段」そのものなのである。
さらに問題なのは、建前と実態の乖離(かいり)のみならず、技能実習生が劣悪な労働環境によって被害を受けているケースが存在することだ。17年には、テレビ東京系の番組「ガイアの夜明け」において、有名アパレルブランドの洋服を製造している岐阜県の孫請け工場が取り上げられ、中国人実習生の女性たちが約2年半にわたり、劣悪な環境での労働を余儀なくされている様子が全国放送された。具体的な被害実態としては、
- 休みは7カ月で1日だけ
- 残業197時間で手取り13万円
- 時給400円
- 約620万円の未払賃金支払いを免れるために倒産
- 労災保険を利用して国から立替払いさせる
――という衝撃的なもので、当時の視聴者からは「ここのワンピースを買ってたのでショック」「中国人研修生を奴隷のようにこき使って作られた服なんて絶対買わない」と批判が殺到。会社側はその後の公式発表において「製造工場とは直接の取引がなかったため、労務問題の存在を認識していなかった」「取引メーカーの先の縫製工場において、不適切な人権労働環境のもと製造されていた実情を知り得なかったことは大いに反省すべき点であると認識」「同工場での製造は終了するとともに、今後は製造現場についてさらなる関心を払い、自社商品がそのような環境下で製造されることがないように努力する」旨をコメントしている。
厚生労働省が20年10月に発表した「技能実習生の実習実施者に対する監督指導、送検等の状況」によると、技能実習生が在籍している全国9455事業所に対して労基署が監督指導を行ったうち、実に7割以上において労働基準関係法令違反が発覚していることが明らかになっている。この「外国人技能実習事業者の7割が違反」という数値は15年からほぼ横ばいで、改善の兆しは見られない。
主な違反事項は、「労働時間(21.5%)」「使用する機械に対して講ずべき措置などの安全基準(20.9%)」「割増賃金の支払(16.3%)」の順に多く、重大・悪質な違反によって送検まで至ったケースも34件存在している。
最低賃金を下回る報酬、長時間労働、賃金未払い、不十分な安全対策、7割が労基法違反――「技能実習生」とは名ばかりで、受け入れ事業者にとっては「数年後には必ず帰国してくれる、安くて便利な外国人労働者」程度の位置付けになってしまっているように見受けられる。報道される際も、日本人と比べて明らかに劣悪な環境下での労働を強いられているかのような報道が多く、同様の印象をお持ちの方もおられることだろう。
しかし、そういった実態は変わりつつあるようだ。
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