2015年7月27日以前の記事
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企業の「ワクチン接種強要」 法的に問題になるケースとは?(2/2 ページ)

大企業を中心に新型コロナウイルスワクチンの職域接種が検討、実施され始めていますが、心配されるのがワクチン接種を巡るハラスメントです。法的にも問題になりえるような行為と、企業が注意すべきポイントを解説します。

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「自己決定権」をないがしろにしてはならない 

 企業がこのような法的リスクを回避するためには、まず、「予防接種を受けるか否かは、従業員個人の判断に委ねられている」という点を理解する必要があります。

 新型コロナウイルスの予防接種は、法律上、麻しんや風しんなどと同様、「接種を受けるよう努めなければならない」という規定が適用され、努力義務が課されています(予防接種法9条)。努力義務は、接種の協力を求めるものです。接種を受けるか否かについては、あくまでも本人が納得の上で判断するものです。

 ワクチン接種を受けるか否かは、個人の生命や健康のあり方を決めることであり、他者が強制すれば、「自己決定権」をないがしろにすることにもなります。そのため、この問題については非常に慎重な対応が求められます。

 では具体的に、どのように対応すればよいのでしょうか。過去の裁判例をもとに、2つのポイントがあると考えられます。まずは、1つ目のポイントから解説します。

従業員のワクチン接種対応のポイント

  • (1)企業は、接種の「指示」や「命令」はできないが、適切な方法による「勧奨」は許される
  • (2)従業員が接種に同意している場合でも、実質的に「拒否することが困難な状況」がないか、注意する

「一切の説得が許されない」訳ではない

 企業が従業員の自主的判断に委ねるべき事柄について口出しし、裁判に発展するケースというのは多々存在します。

 従業員の個人的な交際関係という自主的判断に委ねるべき事柄について、企業側が口出しした裁判例では、「職場への悪影響が生じ、これを是正する必要がある場合を除き」介入するべきでないと判断されました(男女交際に介入する課長の言動の違法性が争われた事例:福岡高裁2013年7月30日判決)。

 ワクチン接種については、従業員の自主的判断に委ねるべき事柄ではありますが、多くの企業は接種を促進したいと考えていることでしょう。従業員の健康や、業務や職場環境への影響、取引先やお客さんの安全確保などがその理由だとすれば、企業による一切の説得が許されない事柄とは考えにくく、適切な「勧奨」は許されるでしょう。

どの程度の「勧奨」なら問題ない?

 どの程度の「勧奨」が許されるかについて考える上で、参考になる裁判例も存在します。

 部下の私生活上の問題に対し、上司が一定の忠告や説得をしたケースで、裁判所は、「会社や上司の都合から積極的に部下の説得を試みる場合であっても、それが一定の節度をもってなされる限り、部下に多少の違和感、不快感をもたらしたからといって、直ちに違法と断ずることはできない」としました。

 一法、部下が確定的な決断をした後も、人事上の不利益をほのめかしながら、少なくとも2カ月間前後、約8回にわたって執拗に説得を続けた上司の行為は違法としました。なお、説得の回数や態様を踏まえ、別の上司の行為については、違法性が否定されています(部下の不動産を巡る私的トラブルを解決するため、上司のなした執拗な説得などの違法性が争われた事例:横浜地裁1990年5月29日判決)。

 従って、企業としては、業務上の必要性を踏まえ、ワクチン接種を拒否する明確な決断をしているかどうか不明な従業員に対し、常識に照らし、行き過ぎない範囲で接種を勧めることは可能だと考えられます。こうした裁判例を参考にして、行き過ぎた勧め方をしないよう注意しましょう。

 このほか、ワクチン接種を実質的に拒否できない状況だった場合、法律に触れるリスクも考えられます。後編では、これについても解説します。

【後編】ワクチン接種の有無「職場に○×で貼り出し」はNG? 企業が絶対にしてはいけない対応例

著者プロフィール

佐藤みのり 弁護士

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慶應義塾大学法学部政治学科卒業(首席)、同大学院法務研究科修了後、2012年司法試験に合格。複数法律事務所で実務経験を積んだ後、2015年佐藤みのり法律事務所を開設。ハラスメント問題、コンプライアンス問題、子どもの人権問題などに積極的に取り組み、弁護士として活動する傍ら、大学や大学院で教鞭をとり(慶應義塾大学大学院法務研究科助教、デジタルハリウッド大学非常勤講師)、ニュース番組の取材協力や法律コラム・本の執筆など、幅広く活動。ハラスメントや内部通報制度など、企業向け講演会、研修会の講師も務める。


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