ハラスメントブームの功罪 立て続けに起こる「就活セクハラ」報道に潜む違和感をひもとく:犯罪? ハラスメント?(3/4 ページ)
最近、採用担当者の「セクハラ」事件が多いが、果たしてそれらを「セクハラ」で片付けていいのか。言葉で事象を可視化するメリットがある一方、ハラスメントブームには注意点も必要ではないだろうか。
6月18日、毎日新聞は「日本製鉄人事担当社員、採用予定の女性にセクハラ 性的関係迫る」と題した記事を報じました。入社予定の女性に性的関係を迫るなどの不適切行為をしていた社員が懲戒解雇となった、という内容です。このような許しがたい行為を報じること自体は、社会的に意義があると思います。
残念ながら、採用に関与する者がその立場を利用して、同じような行為におよんでしまうケースはこれまでに何度も繰り返されてきました。少し前にも、近鉄グループホールディングスの採用担当者が、就職活動中の女子学生に不適切な行為を働いたと報じられたばかりです。
こうした許しがたい行為の存在を報じることの意義とは別に、強い違和感を覚えるのは、同様の問題が取り上げられる度に、職場にまつわる“セクハラ”というくくりで扱われることです。
「セクハラ」と「犯罪」の境界を考える
厚生労働省のパンフレットには、「職場におけるセクシュアルハラスメント」について以下のように説明されています。
職場におけるセクシュアルハラスメントは、「職場」において行われる、「労働者」の意に反する「性的な言動」に対する労働者の対応により労働条件について不利益を受けたり、「性的な言動」により就業環境が害されることです
そもそもハラスメントとは「嫌がらせ」という意味です。パンフレットにも、「労働条件について不利益を受け」たり「職場環境が害される」こととあります。紹介した記事で報じられているような「性的関係を迫るなどの不適切行為」の実態は、こうしたハラスメントの範囲に収まるのでしょうか。
今回の事件に際して、会社側が事態を重く見て、懲戒解雇という最も厳しい処分を下していることからも「不適切行為」が、「労働条件について不利益を受け」たり「職場環境が害される」程度で収まるような内容でないことが伺えます。記事以上の詳細を把握できない中での推測とはなってしまいますが、むしろ強制性交等罪などの犯罪行為としてくくるべき内容のように思われます。
セクハラが高じて犯罪に至った、という言い方はできるのかもしれませんが、犯罪行為そのものをセクハラと呼んでしまうと、ハラスメントという言葉によって、これまで見えづらかった不健全な行為につけた輪郭をかえってぼやけさせてしまいます。
このように犯罪行為をセクハラ(あるいはハラスメント)の一環としてくくってしまうことには、少なくとも2つの懸念があります。
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